石油、そして灼熱の砂漠に揺らぐラクダの群れといえば、アラビア半島をイメージする人が多い。しかし、その最西南端にある国、イエメンを知る人は少ない。しかし、「私はあなたの愛の奴隷……」というエキゾチックで官能的な曲「シバの女王」は、一度や二度は耳にしているはず。モカマタリは、喫茶店での身近なコーヒーとして、コーヒー党には忘れることができない。
私たちがよく知っているこの二つは、実はイエメンに深く関係している。
シバの女王は、古代イエメン(紀元前八世紀頃)に誕生したシバ王国の女王であり、一方、モカマタリはイエメンの紅海沿岸の港町モカから出荷された、イエメンのコーヒーを指す。
とはいえ、それ以外のこととなると、イエメンは私たちに馴染みの薄い国である。イエメンは、アラブ諸国の中でシバ王国につながる、もっとも古い歴史をもつ。つい最近(一九九〇年に南北統一)まで南と北に別れ、長い間、内戦が続けられていた。一般の外国人が入れるようになって、まだ一〇年そこそこしか経っていない。イエメンは、長期間にわたって世界の潮流から見放されてきたのだ。
逆に、そうしたことが幸いしてか、今日のイエメンには、素晴らしいアラブの自然や文化、部族社会の慣習や伝統、さらには住居、集落が残されている。いわば生きた博物館のような国であり、イエメンが「アラブの田舎」と呼ばれるゆえんでもある。
女性は黒いヴェールを全身に覆い、目の部分だけを少し出す。自分の貞節を守るスタイルであり、男の前に姿を曝すことを極端にきらう。
男は、ジャンビーアという短剣を腹の前にさす。ジャンビーアは男の誇りであり、部族社会での一人前の男であることを示す。
女のヴェール、男のジャンビーア。十二歳〜十三歳くらいになると、男も女もそれぞれ身にまとい、一人前として部族の一員に迎えられる。イエメン人は部族を重んじ、禁欲的で誇り高い。住居やその集落もまた、そうしたイエメン人の特長をよく表した構えとなっている。