建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第1話 ヴェールに包まれたイエメンの集落

山上の集落は迷路となり、石造り塔の住居は要塞となる

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 北イエメン中央高地で訪れた“ハジャラ”の集落は、見渡すかぎり険しい山岳地の中で、ひときわ小高い絶壁の山上に築かれていた。周辺一帯は、標高二三〇〇メートル前後の高地。それだけで充分厳しい地形にあるのに、それよりさらに二〇〇~三〇〇メートルも高い岩山の頂上に家を築いている。しかも、築かれている家は、五~六階建ての石造り搭状住居であり、断崖絶壁を思わせる山頂の周辺に、壁を寄り添うようにぎっしり築かれている。集落は堅固な要塞に見える。見えるというよりも要塞そのもの。人間はもとより猫の子一匹たりとも侵入できない。第一、その山頂に行くのも一苦労なのである。
 集落の内部には搭状住居が六〇~七〇棟、壁を寄り添い、時にはジグザグに建てられている。棟と棟との間に残された空き地や路地が広場であり、集落内の小路なのだが、いずれにしても複雑で迷路化している。外部者がたとえ迷い込んだとしても、自分がどこにいるか見当もつかなくなってしまう。
 部族間の戦いになると、子どもも婦女子も家畜も、すべてこの山頂の集落の中に籠城する。住居もまた、生活の場であると同時に、籠城・防衛の場となっている。よくよく見ると、五~六階建ての住居の一~二階は、家畜小屋や物置にあてられ、人の住む場は三階から上になっていることが多い。一~二階には出入口以外に開口部らしきものはほとんどない。したがって、外敵は運よく集落内に侵入できたとしても、住居内に入ることは難しい。その上、住居内部の階段は、いつでも地上階と切り離せる仕組みになっている。イエメンの石の搭状住居は、驚くほど閉鎖的で防衛的なのだ。
 こうした集落及び住居の構造は、ハジャラの集落独自のものではなく、イエメンの山岳高地全域にほぼ共通したものとしてある。しかも、その姿は何千年前もの古代シバ王国からさして変わっていないという。
 イエメンは、砂漠の山岳地を歩く少女のように、いまだヴェールの中にある。
 

 

   

 

 

 


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