建築計画研究所 都市梱包工房

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第33話  勿の文字が集落の基盤 地形は支配者の手に
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「真上から見るとこの集落の地形は、漢字の「勿」の形をしているのです。」と案内人の先生が言われた。集落のある山は4本の尾根筋に分かれ、その間を谷が走っている。その谷筋に住居が築かれ丁度上から俯瞰するとその姿は、漢字の勿の文字にあてはまるらしいのだ。特に南向きに勿の文字形をした地形は珍しく、風水では類い稀な吉祥の地を意味するとも言う。
 
「勿」のような事は他にもある。例えば動物の龍や牛、虎、馬等、鳥の鶴、花の梅や蓮等の文字がそれらにあたる。いずれも分りやすく風水の吉祥の地を説明しているのだ。
 
中国で生まれた風水地理学は、同じように日本にも伝わるが日本ではあまり一般化されず、韓国で本場の中国よりも重宝され、さらに論理化され、儒教と共に社会の隅々までに浸透したのだ。さしずめ韓国の伝統的な集落の多くは、それらの写し絵のようなものである。
話を良洞マウルに戻そう。
 
良洞マウルは安東の河回(ハフェ)とともに、現存する代表的な李朝時代の同姓集落である。住居数150戸は今も昔もさほど変わりはない。勿の文字の地形を示す中央2本の大きな谷、奥の高台に左右に分かれ李氏宗家と、孫氏宗家の住居が建てられていた。
両家は両班(ヤンバン、李朝期の文官、武官等の総称)の中でも名門で、村はこの両家を中心に、その親族達と下人達の住居によって成り立っていた。各派はその時代時代で互いに競いあいながら村を支えて来ていたと言う。
 
集落内に見られる住居や亭、堂等の多くの施設は、各派の勢力分布を伝える目にみえるサインであり、そのの証ともとれる。その頂点に象徴として李、孫の宗家があったのだ。
 
他の家は絶対に宗家より高い場所には建ててはいけないと言う。集落内の小山や小さな起伏は、宗家を中心にした身分の位を示しているようにも見える。谷は、各々の差別の境界とも見れるのだ。
集落の南に流れる小川から、谷筋に山を登り集落の最も奥地の高台に在る孫宗家の前に立ってみた。
 
そこから村の一端が一望出来る。小高い山の頂きの一部を占有しているのは大きな家、谷に近づくに従い家も屋敷も粗末になっている。自然地形までも利用し、上下関係を貫徹しようと試みた驚くべき儒教観念の形象化である。勿の山並の地形は永い月日の中で、見事なまでに支配の色に染められていた。
 

 

   

 

 

 


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