建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第32話  安東の両班住居と日本の歴史的侵略の残像
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粉雪まじりの2月末、寒い日であったが舎廊棟はよくオンドルが効き嘘のように温かい。ひととおり部屋や周囲を見た後に、その場でお茶に始まり丁寧なもてなしを受けた。
 
何か質問があるかと言う当主の言葉に、幾つかの質問を通訳を返して行っていた。私のある質問を境に、それまで和んでいたその場の雰囲気が突然一変したように感じられた。
 
私はそれまで見て来た幾つかの両班住居の例を取り、「この家は一般の平民住居群とかなり離れて建っている、村の中心になくてはならない両班住居の配置としておかしく思いますが‥‥‥。」と言うような質問をしたのだ。 答えを曖昧にしている当主に、追い掛けるように「風水地理学の面からも、この家と集落の関係は不思議に感じますが何か理由でもあるのでしょうか」と再び尋ねたのだ。
 
震えるように、緊張した面向きで当主は答えたようであるが、その答えを周りの誰もが通訳してくれない。気まずいようなその場の雰囲気を察し、それ以上質問を止めにした。
 
最後はその家を追われるようにして我々は出た。外に出て暫くして案内人の韓国の先生が、初めてその場で話せなかった事の成りゆきを話してくれたのだ。
 
李朝時代に当主の祖先が豊臣秀吉の朝鮮侵攻(16世紀末の壬辰の乱)に遇い集落、家が焼き払われた。今度は20世紀の始め日本軍がやって来た。その時先代は村の為を思い日本軍との仲立ちをしたらしい。その結果村人達に日本軍のスパイと決めつけられ、身内であるはずの村びとに又家を焼き払われてしまうのだ。居場所を失った先代は村を離れ、今の場所に居を構えることになった。「従ってあの場に棲みたくて住んでいたのではないのです」
 
私の当主に投げかけた質問は、それらの辛い一族の歴史を思い出させてしまったのだ。しかもそれらの要因の根底に日本人が深く関わっていた。「嗚呼、とんでもない無礼な質問をしてしまった。」おそらく世が世なら殺されても仕方がないような質問だったのだろう。
隣国ゆえに両国の間には、私達の知らない多くの歴史的悲劇やドラマが有る。
 
その事を訪れる度に、新しい事実として知らしめられる。言葉を失ってしまう。「本当に韓国は近くて遠い国なのか」遥か遠い歴史の中の真実によれば両国は近くて更に近い国であったように思えるのだが。
 

 

   

 

 

 


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