建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第30話  木の民トン族の集落.2
      木造家屋の陰影、温かいもてなし
      トン族の生活に忘れていた日本を見た
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かって何処にでも見られた我が国の棚田の風景と、同じ風景がここにあるのだ。いまこうして眺めているトン族の棚田の風景には、そうした私達の遥か遠い祖先に繋がるおもいが色濃く残されているような気がする。そして、それらが私達の心を激しく揺すり、打つのだろう。黒い瓦屋根と土壁、軒の深い佇まいの住居が、水田向こうの斜面に重なり合うように築かれている。
 
集落に入る手前の民家で、トン族の家族料理を御馳走になった。
楊樹青さん宅で家族はお年寄りを入れて6人。間口約12m、奥行き10m、屋根裏を入れると木造の4階建ての造り。かなり大きい住居のように見えるが、対面の斜面に築かれているほとんどの住居と同規模で、造りも概ね同じであるという。
 
1階は主に家畜小屋やと物置き、2階が家族の集まる居間や食事の場、3階が寝室だ。屋根裏は予備室兼物置きとなっていた。軒の出が深いので部屋の奥までに光が届かない。特に3階の各部屋は窓も少なく、日中でもかなり暗い。その暗い部屋に辺構わず衣服が置かれていた。
 
食事を頂いたのは2階の居間、部屋の間仕切り戸が取り払われて、広々とした板の間が黒グロに光っている。
ここでも歓迎の歌が席に付くや否やおこなわれた。「乾杯」と叫び飲んだのが油茶と呼ばれるトン族特有のお茶である。餅米とピーナツそれにお茶を混ぜ合わた飲物だ。
トン族は一日何杯も油茶を飲む。渋めのお茶にお焦げを煎じたような味がした。
 
お茶の後はトン族の心を込めた料理のもてなし。主食は餅米。魚や、肉はどれも酸味がある。味はそれほど悪くないが慣れないと腐った物を頂いているように錯覚する。
 
どのようにして作るのかと聞いたら、(塩漬けして餅米で発酵させる)と言う。琵琶湖の鮒寿司を思い出した。その話をトン族の娘寥女史に話したら、こちらでも同じような料理があり、川魚を使ったものでその名も「ナレズシ」と言うのだそうだ。
 
それをつくるのは、一家に女の子が生まれた時、それを記念として魚を漬けます。やがて生まれた娘さんが17~18才になり、嫁に行く時にその魚を始めて取り出し祝いの席で食べる、という。
 
その時は一族一同、村をあげて歌い踊るのだ。私達にも繋がる切なくて、ジーンとくる話を聞いた。目の前の御馳走が思わず霞み腹一杯ならず、胸が一杯になってしまった。
 
薄暗い板の間から外に目を移すと、棚田に働く人々や子供達が居て、集落に陽が当たり輝いていた。この風景は忘れてはいけない。そして大切にしなくてはならないと思った。
 

 

   

 

 

 


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