建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第30話  木の民トン族の集落.2
      懐かしい風景、棚田を支える人々
 
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柔らかな緑の稲穂が谷を渡る風を受けて揺れている。
 
サワ、サワ、サワと揺れている。その揺れる稲穂の中をトン族の村に向かった。むせ返るような稲穂と、土の匂いがする。これは久しく忘れていた大地の匂い、子供の頃の懐かしい自然の匂いだ。
 
やっと人1人が通れる程の畦道で、農作業に向かうトン族の家族に出会ったりする。藍染めの野良着をきちんと纏い、畦道に茂る稲の中に身体を半分入れ込むようにして、私達の通り過ぎるのを待っていてくれる。時には恥ずかしそうに立ち止まる子供達もいる。
 
泥まみれになった豚や、犬、アヒル、鶏、等の一行もいたりする。
長閑でほのぼのとした気配が辺にみなぎっている。人々はもちろんの事、あぜ道に茂る稲穂や雑草、草花、集落を包む木々、山々までがとてつもない優しさと、温かさで満ち溢れているように思えてしまう。
 
「春を愛する人は、心清き人、すみれの花のような、ぼくの友だち‥‥‥ラン、ラン、ラララ‥‥」トン族の出身で今回の集落の案内人`寥女史`が畦道で再び歌いだした。山越えの車の中でも、私たちは彼女の歌を散々聞かされ、時には歌わされもして来たのだ。
 
彼女はこの近くの村の出だと言う。だから道で合う人ほとんどが顔馴染みなようで、誰にでも笑顔で挨拶をする。そして歩きながらよく歌う。ラン、ラン、ララララ‥‥。時々片言の日本語で、懐かしい歌を唱うのでハッとする。記憶が蘇リ熱くなる。
 
かってこの谷一体は照葉樹林の森であったと言う。そうした森を数千年もの長い年月をかけてトン族の人々は伐り拓き、耕し守り支えて来た。その証しがこの畦道に茂る稲作であり、天にも届くような美しい棚田の景観なのだろう。稲はやがて海を渡り日本に伝わる。弥生式時代、日本の風景もやはりこの稲作によって大きく変化して行く。

 

   

 

 

 


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