砂漠のオアシス都市,リマからアンデス高地の古都クスコまでは地図上の距離ではおよそ1200km。一日平均400kmを走るとして4~5日をクスコの到着日と定めたが,その計算は大きく狂ってしまった。標高5000m級の山が聳え立つアンデスの高地の山越え,峠越えの厳しさを甘く見ていたのだ。
まず最初に車のガス欠やら,原因不明のエンジントラブルが起こった。次に標高3000m辺から我々調査メンバーに異変が起きた。頭が押し付けられるように痛いのと,身体がだるくて動きたくないのだ。この症状はペルー第2の都市アレキッパを越え,峠の集落を訪れた時ピークに達した。目前の雪を抱いたミステイ山が標高6000m強,私達は少なくとも4000mの高所にいたのだ。脚がふらつき,宙を歩いているようでもう調査どころでない。
私達は車共々,皆が高山病にかかっていたのだ。誰もが初めての体験でそれが高山病の症状等とはまったく気づいてなくて「高地特有の風邪である」とか「アンデスの神々のたたりである」とか「インカの亡者の仕業」などとかってに病名を決めつけていたのだ。体力まかせの無茶な行動であったが幸いに大事に至らなかった。そのような事でクスコまでは4~5日どころか,その倍近い行程となってしまった。
南米大陸を大平洋にそって,南北8000km渡って連なるアンデス山脈は,海岸沿いを世界一降雨量の少ない砂漠地帯にさせる一方で,その反対側のアンデス西側は,高温多湿で鬱蒼と茂るアマゾン熱帯原生林とさせている。ここでは全てが極端な様相を示すのだ。
海岸砂漠地帯とアマゾン熱帯雨林の間が,私達の目指すアンデス高地。クスコやインデヲの集落なのだが,ここも又極端に厳しい環境で,そこに到着するまでのほとんどが岩肌を剥き出しの山や斜面地である。
その荒れた地表にインデヲ達は鍬を入れ耕す。階段状の細い畑が斜面の中腹まで伸びている。そこに見えるのは私達にはどう見ても小石混じりの土と枯れた草であって,緑の作物や樹木等は見られない。
集落は谷沿いや,僅かな平地の残る斜面に数戸が頼りなさそうに建つている。豊かに映る集落や,群として力強い住居等ほとんどみられない。