弱い日射しを受け,靄が輝き出す。辺はすべてが靄の中だ。砂丘は僅かであるが湿りを得たようである。
ここ南米アンデス山脈西側の海岸地帯,ペルーアタカマ砂漠は世界でも最も雨の降らない砂漠だ。年間の降雨量は僅か13mm。雨と呼ぶよりはむしろ靄状の霧雨に近い5月に降るその貴重な霧雨をリマの人々は「アンデスの涙」と呼んでいる。
砂丘の向こうは大西洋。打ち寄せる波のうねりや,白波の様子からすると海はかなり荒れているのだろう。砂丘を渡る風と,霧雨の壁に打ち消されてか音が聞こえてこない。
砂漠は暑いのが常識だが,ここはひんやりと肌寒い。それにしても行けども,行けども砂漠。巾30~50km,長さ3000km.に渡っての広大な砂漠。どうにか人々が住めるのは,この霧雨と,アンデスの山々より注ぐ幾本かの川のおかげなのだ。アンデスの山々に降る雨や,雪解けが流れなって,この法外な砂漠に潤いを与えている。
人々がこの水辺を求め集まリ村を築き生活して来たのは,今も昔も変わらないようである。こうした川(オアシス)が,砂漠の中に四十数本あると言う。首都リマもそれらの一つなのだ。近年アンデスの山に住むインデオ達やメステーソ(先住民であるインデオと白人との混血)が,どんどん海岸沿いのオアシスに下りて来ているのだ。特にリマ周辺や大きな都市に集中しているようだ。
アンデス高地での作物の不作や,急激な人口の増加が引き金になったと見られるが,それよりオアシスの都市の魅力を求めて,移住して来てると言うのが現状のようである。移住の仕方に幾つかある。血縁を頼ったり,貸家やアパート等を借りての移住はあまり問題にならない。問題は南米特有のバラック造りの不法移住者達である。