アルプスは世界の人びとに愛されて止まない山だ。そのアルプスを最初に意識し、世に伝えたのはダンテの親友、イタリアの詩人ペトラルカであるらしい。
それから今日までこのアルプスは,世界のアルピニストの胸を震わせ、詩に、絵画に、音楽に詠われて行く。
「いつかある日,山で死んだら、古い山の友よ伝えてくれ」・‥‥。
フランスアルプスのエタソンの谷を歌ったこのシャンソンは、山を愛する人びとのみならず、多くの人の心をとりこにした。なんとも切ない、そして狂おしい旋律。今でも山を歩くたびに、思うたびに独りでに口ずさんでしまう。
この山を巡る人びとの悲哀は、いまには始まったのではない。ヨーロッパの強国,イタリア、フランス、ドイツ、スイス、そしてオーストリア等の各国との国境でもあるアルプスは、そうした国々の力関係を永い歴史の中で常に、投影しながら歩んで来ている。
そのたびこの山は、争いの場となり、悲哀の場となって来たのだ。その結果様々な民族がかけめぐリ、そして様々な文化がうまれる。国の中に4つの公用語が在ると言うよなスイスを始め、アルプスは言葉も民族も、文化も異なる人びとが数多く暮らしている広大な山岳地なのだ。最高峰モンブラン(4807m)を筆頭に、マッターホルン、アイガー、ユングフラウ等の高峰や氷河の山々。その長さ東西1000km、そうした山々の麓に人びとは農業や牧畜を営みながら暮らしている。
アルプスの語源となったアルプとは、スイス人の祖先、ケルト人の言葉で高所を意味する言葉らしい。アルプスの針葉樹限界は、北側と南側では異なるが概ね2000m前後、森林限界から上は牧草地になっている。現在アルプスに見られる集落や、その民家は大きくとらえるとこれらの牧草地に造られているものと、山の麓に築かれているものに分かれる。