建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第17話  カルパチア山脈の集落と民家.2
      校倉造りの住居、暮らしにみるスラグ人の心

チチマニーの村、校倉壁の色彩紋様が伝えるもの

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 実は、何気なく見ていた緑の牧草地も、暗い森も、集落と同様に多くの人々の夢や労苦の証なのである。
 カルパチア山脈の山間で訪れたチチマニーの集落も、そうしたバァーハ川沿いの集落と同じような歴史を秘めてきているのだろうが、その集落の造りや、民家の様子は大きく異なって私たちに見えた。
集落は針葉樹(トウヒ)の深い森の中にあり、それらの森の切り開かれた窪地に、谷に沿うように、細長く築かれていた。谷には小さな小川が流れ、家々はこの小川を基準に配置されているようである。
 家の造りは、太さにして直径三〇~四〇センチほどの丸太を太鼓落し(丸太の両側のみを平滑に削り落したもの)にして横積みした校倉造りであるが、その壁面に所狭しと幾何学紋様が描かれている。白の漆喰を用いた絵模様が多いが、中にはベンガラ色や緑色の壁もある。
 一見、童話の世界に入ったように無限の楽しい集落景色のようにも思えるが、しばらくすると、とても神秘的で、儀式的な場に迷い込んでしまったかのようにも思えてくる。
 単純な幾何学紋様が、時がたつにつれて繰り返し述べている祈りや、呪文、暗号のようにも見えてくるからなのだろうか。
 そうした壁面の家々が数十棟、いや百棟近くあろうか、谷からなだらかな後方の農地へ向かって続いている。じっと家並を見ていると、さまざまな思いが脳裏をよぎる。
 この壁に描かれた無数の紋様は、いったい何を意味し、誰に、何を伝えようとしているのだろうか。人目にふれる町中での建物ならまだしも、最寄りの小さなビストリツァの町からでさえ、暗い針葉樹の森や谷をいくつも越えて、おそらく三〇~四〇キロは森の奥に入っている村なのだ。
 丸太組建築(ログハウス)とは、そもそも、道具のない時代、町を離れ、平地を離れ、針葉樹の森に進出していく人々が、斧一つで簡単に造れる素朴な建築であるはずなのだ。したがって、私たちの知る校倉建築とは、木理を生かした木材一色の内外観が特長で、せいぜいその上に色のついた土壁か漆喰を塗るくらいが一般的である。
 チチマニーの彩色、紋様校倉壁は、そうした一般常識をはるかに越えたものとして私には感じられた。
 家を築くことまでは誰も必死で考えるが、それを守り支え、次世代につないでいくには、人々の協力、つまり集団の力が必要である。チチマニーの村のように厳しい自然環境の中で、継続していくことは、そうした共同体なくしては生きられない。校倉壁の彩色紋様は、そうした集団の思いを伝えているのではないだろうか。
 思いを伝える人は、きっと村を離れた人々であり、村に生きる人々であろう。いずれにしても、消しても消えない意味深い紋様であるに違いない。
 

 

   

 

 

 


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