ファサードの閉鎖的な造りに反して、内部は居間を中心にした、開放的な室の造りをとっている。出入口から直接、居間に入ると、各寝室や台所などは、すべてこの居間というか、広間を介して連絡される。つまり、廊下という室はここには存在しない。
広間がすべてを担っている。その広間の天井が、外部から見たときの円錐屋根(トゥルーロ)だ。薄い石灰石の板が、頂点をめざしてきめ細かく積み上げられていっている。
頂点に小さな換気用の穴があって、その穴よりこぼれ落ちる光が、トゥルーロの内壁にあたり、一枚一枚の石灰石板は、光に輝く一片一片の黄金の鱗のようにも見えてくる。
一軒の家に一個として、アルベロベロには、少なくともこうしたトゥルーロの住居が一〇〇〇戸ある計算になる。
トゥルーロの屋根の形状が、あの中世の代表的都市、ヴェネツィア、サンマルコの屋根に写しとられたとは言いがたいが、トゥルーロの内部空間が与える神秘さ、そして光を抱いた神々しさは、十分にそれらに通じるものがあると思う。
ましてや、ビザンティン建築のクーポラ内部に施されたモザイクタイルやレンガの集積などを見れば見るほどに、このアルベロベロの石灰石板による素朴なトゥルーロがその原形を成したように思えてならないのだ。
歴史の表に出ない集落やその民家の構法・デザインモチーフが、実は巨大な都市や名建築の下絵になっていたりする。そう考えると楽しい。集落は、地域や国を、そして民族を越えて生きているのだ。