建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第12話  南イタリア  石灰岩の集落と住居
 
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 アドリア海に面した北イタリアの都市と言えば、ヴェネツィアに代表される。
 そのヴェネツィアの象徴としてあるサンマルコ大聖堂、屋根の上に大きな五つのドーム(クーポラと呼ぶ)をのせた形が特長で、当地を訪れる人々の記念写真に必ずと言っていいほど出てくる。十一世紀に築かれたビザンティン様式の名建築である。
 イタリアは、集落というよりも、ローマ帝国の遺跡、こうした中世につながる都市や建築が多く、庶民が生活をする集落とか、その民家が消えてしまっているように思える。が実はそれだけではなく、素晴らしい集落や民家もあるのだ。
 ヴェネツィアを南下すること約一〇〇〇キロほど、イタリアを長グツに例えるなら、その長グツの踵の部分で、素晴らしい集落を訪れた。まるでサンマルコ大聖堂の屋根を、いくつも並べたような集落である。
この南イタリアの踵にあたる地方を、アプリア地方と呼んでいる。周辺一帯は、石灰岩の丘陵地となっていて、人々はその石灰岩地質を耕し、ブドウ、サクランボ、オリーブなどの果実栽培を行っている。
 町も石灰岩の上に立ち、家々の造りも石灰岩を平板にし、それを壁や屋根に積み上げた石造りの民家が多い。
 アルベロベロの集落は、その代表的な集落で、一〇〇〇戸、三〇〇〇人が住む。敷地はスリバチ状の丘陵地となっており、全体で一五haほどの規模だ。スリバチ状の底は細長い広場、ここは町の市場でもあり、居住地区にはここから扇状の道路が走る。
 市場の立つ広場から、急な登坂となっていて、その坂道の両側に住居が隙間なく並んでいる。石灰岩を積んだ壁は、漆喰で塗り固められ、一メートルほどの厚い壁となっている。その壁に小さな窓、出入口、上部のアーチ型をした庇、そして円錐形の石屋根(トゥルーロと呼ぶ)が見える。
 道路に面して、みな同じ素材を用い、同じモチーフで住居のファサード(外観)が造られているが、どれ一つも同じに見えてこない不思議な光景だ。同じように見えても、石壁の厚さやデコボコ、窓の大小、アーチやトゥルーロ、屋根の取り付く位置などが、それぞれ異なって集まっているからなのだろう。なによりも、うねる坂路が、移動して歩くこちら側の視点を、微妙に変化させる役割を担っていることも大きな要因であろう。
 さらに、家々の前の生活表情も、子供が遊んでいたり、猫や犬が寝そべっていたり、老人の立ち話があったりと、実に多様で豊かなのである。そうした路上に映す光景が、私たちにはとめどもない、刺激や、そして心地よさをもたらしてくれているのだ。
 

 

   

 

 

 


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