ホセ少年の家、クエバスの出入口は、丘の窪地が少し広くなった場所に設けられていた。この小広場に面して、他にも数戸の出入口が設けられている。
出入口は壁を少し立ち上げ、漆喰塗りとし、上部に焼瓦をのせている。外から見ると、一般の家(カーサ)に似せ、外観とさせているのだ。
家族は五人家族、両親は農業をしている。このクエバス集落に住む多くは農民で、自営というよりも、どちらかというと小作人で、オレンジ農家や農場に働きに出かけている人々が多い。
狭い出入口を通ると居間に出る。日本の八畳間くらいの大きさである。天井、壁は漆喰塗り、床はタイル。清潔で一般の住居と変わりない。居間に接して台所が設けられ、そこだけが天井を通して外部とつながっている。丘の上で見た換気塔は、この台所に結ばれているのだ。自然の採光が天井より優しく射し込んでいて、心地よいインテリアを演出している。
居間の奥に、ダンゴ状に二部屋つくられている。両親と子供たちの寝室である。寝室まで進むと、ほとんど外の音が聞こえない。クエバスの中は、夏も冬も快適で、それほど温度の変化がないという。子供や家族が増えれば、さらに奥へと穴を掘り、部屋を付け足せばよい。
中から下界は見えない。昼でも暗いなどの弱点はあるが、それさえ我慢すれば、クエバスの中は快適なのだ。最近では、平地の一般住居(カーサ)に住む人々(上の町)が、わざわざ穴居住居(クエバス)を造り、そこに住み入る人が多いとも聞く。
本来、このガァディックスに代表されるようなクエバス生活者は、小作人や貧民、またはジプシーたちの住む場所として、平地のカーサに住む人からは、長い間差別化されてきたのである。
両度、ホセ少年の案内でクエバスの丘へ登った。ホセ少年は、丘のすぐ近くまで迫ってきている平地の町を指さして、あれが市役所、あの建物が自分の通う小学校、そして教会……と、声高らかに上の町の施設を説明してくれた。
この少年が大人になる頃には、もう下の町(クエバス)も上の町(カーサ)も関係ない社会なのだろう。
そして、集落もまた新しい転機を迎えていくだろうと思った。