建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第11話  シラネバタ山脈のクエバス(穴居住居)集落
      四年戸のアンダーグランドコミュニティ
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子供は集落の希望であり、夢だ。そして、その集落を探訪する私たちにとっても、時に危機を救ってくれる大切な仲間であり、道案内人(パートナー)なのだ。
 『アディオス、セニョール。こんにちはお兄さんたち! どこから来たの……? そこで何をしているの……?』
 私たちが、この南スペインにある一大クエバス(穴居住居)集落、ガァディックスを前に、右往左往しているのに気づいて、二~三人の仲間と近づいてきた、十一歳のホセ・ガルシア少年の第一声である。
 私たちは世界の辺境地で集落を訪れたとき、幾度となく子供たちと親しくなることで、苦境を逃れたり、集落内部に入れたりすることができた。
 どこの集落でも、大人たちは、遠くから私たちを不信な眼で観察しているだけで、近づこうとしない。その点、子供たちは興味を示してやってきて、アッという間に親しくなれる。ホセ少年との出会いは、私たちにとって幸運であった。穴居集落という当初の不安感も、この少年のおかげで薄れ、集落の奥深くまで踏み入ることができた。当然、ホセ少年の賢明な案内によってではあるが……。
 私たちは、まず最初にガァディックスの集落を遠望したときに、いくつも重なり続く丘陵地の上に点在する奇妙な白い塔を確認することから始めた。塔は大きさにして〇・七×〇・七メートル、高さ一~二メートル、人間を一回り小さくした大きさを想像すればよい。頂点に数個の穴があることから、何かの換気塔であることがわかる。
 ホセ少年の説明によると、この換気塔の下が一戸の住居になっているという。その数は少なく見ても数千個はある。とすると、この丘の下には換気塔の数だけ住居がある。数千戸(実際四千戸)の穴居住居があるのだ。人口にすると、数万人の人々が地中に住んでいることになる。
 丘の上に突き出た塔は、数万人の穴居の息吹、その象徴でもあるのだ。その塔が、数キロ先に聳えるシラネバダ山脈の麓に向かってはてしなく続いていっている。その山々から、時折、冷たい風が吹き下ろしてくる。四月の末とはとても思えない風である。夏の平均気温は二〇℃。冬期で五℃というから、この地は地中海にしては寒冷地なのだ。
 いつ頃からクエバス(穴居住居)生活が始められたのか定かではないが、かなり古い時代かららしい。おそらくこのシラネバダ下ろしの気候に対応した、もっとも合理的で、お金がかからない住まい方として築かれてきたのだろう。ホセ少年が自分の住まいを案内してくれるという。
 

 

   

 

 

 


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