ジブラルタル海峡を渡ると、そこは北アフリカ、マグレブの世界である。マグレブとは”日の沈む国”の意味で、七世紀頃に東方から進出したアラブ人が呼んだことに由来する。
現在の国でみると、地中海に沿った北西アフリカの諸国。大アトラス山脈に抱かれたモロッコ、アルジェリア、チュニジア、と考えればよい。この地は、古くからマグレブの原住民ベルベル人の住む地域であって、地中海を挟んだ対岸のヨーロッパ諸国とは、似ても似つかぬ文化が栄えた国々である。今回は、そのベルベル人の集落と住居を二回に渡って取り上げてみることにする。
その第一回目は、北アフリカの屋根、大アトラスに見られるベルベル人の集落と住居であり、言わばメデナ(イスラム都市)の原形となる集落である。
映画ファンなら、名画”カサブランカ”や”モロッコ””アルジェの戦い”などはよく知っていることだろう。さらに”カスバの女”とくれば、唄にもあるし、私達に馴染みが深い。その名画や唄に出てくる、都市(メディナ)や町がベルベル人の集落”クサール”を原形として築かれたものであり、カスバとは、その中の宝物や穀倉庫としての場、つまり砦のような場を指している言葉なのだ。
今日の北西アフリカは、ベルベル人の歴史と文化なくして語れない。ベルベル人独自の生活や文化は未だしも、アラブと融合したベルベル人の文化となれば、メディナやカスバを皮切りにほとんどがそうであると答えなくてはならない。北西アフリカは、今も昔も、ベルベル人の国なのだ。三〇〇〇~四〇〇〇メートル級の山がつらなるアトラスはさしずめ、そのベルベル人のふる里と呼ぶべき場なのである。