建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第6話  南メソポタミヤ 湖上に浮かぶ一島一家の集落

葦で築かれたマディフと”ノアの方舟”

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 基本的には、一つの島に一家族が住んでいる。が、兄弟等の血縁家族が集まって住むこともあるようだ。住居は半径三メートル、奥に長いつくりで、奥行が三〇~四〇メートルもある。葦や蒲をたばね、アーチの骨組とし、その上に細い葦を編むように重ねた壁や天井。その壁から、微かな陽の光が洩れ、何ともいえない心地好さを感じる。ノアの方舟が、現実のものとしたら、きっとこのような形をしていたのだろう。
 出入口近くが、ゲストルーム(客のもてなしのために設けられた部屋)、その奥が家族室、そして炊事場、寝室、どんどん奥に進むに従い、プライバシーの強い利用のされ方となっている。さらにその奥が、水牛や鶏等の家畜の場だ。独立した島には住居以外、動・植物から生きるためのすべてが集まっているのだ。これは形だけでなく、使われ方までがノアの方舟そのものではないか。 
 人々は一〇棟(島)前後で、長(オサ)を中心に一つの小集団をつくっているようだ。その小集団が数十個集まり、大集団(アシイラ)となる。大集団をまとめるのが部族長(シエイク)である。
 その部族長に、湖沼の一角でひときわ目立つ葦のドームに案内された。大集団のゲストハウスとして利用されていて、マディフと呼ばれる施設だ。
 マディフは、外来者の接客の場であるが、村の集会施設の役割をも担っている。おおむね島住居と同様な形状をしているが、規模はその数倍大きい。四〇~五〇人は入れそうだ。
 「マディフや各住居内のゲストルームは、外来者を大切にするアラブ人の精神を表わしている」という。確かにその通りで、湖沼の葦の家で、私達は心温まる茶(チャイ)の接待を受けた。しかし、その一方で、そのマディフ以外、集落の中に入ることを拒否すると、私達に暗黙で伝えているように思えた。
 そうした視覚的な仕組や、それを支えてきた慣習とか伝統が、この湿原の島集落を今も変わらないものとし、とてつもない継続に導いている。しかも、その歴史は、「ノアの方舟」よりも、さらに遥か数千年前、文明の発祥時代からともいわれる。
 

 

   

 

 

 


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