建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第2話  流浪の民が造り上げた客家環状土楼の家

機能性豊かな走馬廊と自立自給を目指す大家族住居

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 環状土楼内は、外部の閉鎖的な佇まいからすると、開放的で、温かみのある柔らかな空間構成となっている。一・五メートルもある分厚い土壁は、そこから張り出された無数の木造の柱や梁、壁となって四階まで続いている。その前に色とりどりの布や衣服、寝具などが掛けられ、風に揺れていた。
 軒下には、干され、吊るされた野菜や果実なども見える。見えるのは、物や生活品だけではない。犬や猫、豚、鶏、家鴨、そして人……。それらの走り動く姿に、鳴く声、話し声等々が、土楼の環内に響きわたる。
 これが生活である。そして、それを可能にする場が住居である。いや住居というよりも小さな町か都市といったほうが正しいかもしれない。そこには、私たちが、もうだいぶ前に忘れてしまった生きる臭いや、音、そして多様な実体と躍動があふれていた。
 土楼の外環居住棟は四層になっている。一階が台所、二階が倉庫、三階、四階部分が居室階である。居室は房ファンとも呼ばれ、日本の六畳間くらいの大きさである。その房に面して、奥行一メートル強の廊下が設けられている。廊下は各房を結び、環内を一周できる。所どころに階段や踊り場、休憩場が設けられ、廊下としての役割以外にも、人々の溜まり場やちょっとした作業場などにも利用されている。下方から見上げた時の生活感あふれた光景は、この廊下が造り出したものなのだ。
 走馬廊ツオウマアランと呼ばれ、房をつなぐ多様な廊下として、環状土楼の重要な共有の場ともなっている。その最上階の走馬廊から土楼の環内が一望できる。環内の中央部を占める棟は、祖堂ツウタンである。一族の祖先を祀る建物で、他に一族の集会や冠婚葬祭の場にも利用される。
 その外側を同じ円状に、二重三重にとり囲む輪は、家畜や食料倉庫などの棟である。
 環状の中心から外に、祖堂、食料庫、家畜棟、住居棟となっている。土楼の仕組みは、客家人の日常や生活の中での利便さや、物の大切さの序列を表しているとも見える。
 祖堂を中心にした美しい建築の輪は、そうした客家人の一族や家族制度に生きる証の輪なのでもあろう。
 この環状土楼には、井戸が二つ掘られている。外敵に襲われても、分厚い壁の中で一年近くは籠城できるという。環内を彩る家畜や、食材、倉や納屋の多さは、そうした非常時への用意だてなのだろうし、環内を一望できる走馬廊は、一族がその団結力を確認しあう視覚的装置なのである。
 流浪の果てに辿りつき、生み出した客家の素晴らしい大家族住居である。
 

 

   

 

 

 


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