建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第2話  流浪の民が造り上げた客家環状土楼の家
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標高五〇〇メートル、滑らかな小山が河川と交叉する麓で、巨大な環状土楼住居を訪れた。中国福建省永定県の古竹郷にある客家ハッカの家、“啓承楼”である。
 円環の直径約七〇メートル、高さ一二メートル、四層からなるこの建物は、外周を厚さが一・五メートルもある生土と呼ばれる土壁で築いた大家族住居である。
 後楽園の球場を少し小さくした大きさと思えばよいだろう。恐ろしく威圧的で閉鎖的な姿をして建っていて、とても中に人間が住んでいるようには思えない。地上に舞い降りたUFOか、巨大な蟻地獄といっても不思議ではない。
 この周辺には、こうした環状土楼の家が、一〇〇棟近くあるが、そのうちでも、“啓承楼”は最大級のものである。一七〇九年に三年がかりで建設され、多い時は、内部に九〇〇人近い人々が共同生活をしていたという。現在は、長老の江さんを中心に六〇家族四〇〇人弱が住んでいる。
 客家とは、その名の通りで、先住者からみたら他者、つまり“客”である。客家人は、本来は北方に住んでいた漢民族であり、戦乱や異民族の侵入から逃れて南下した人々である。その移動の歴史も、秦の始皇帝時代から始まるといわれるから、客家と呼ぶにはおかしいほどに遠い昔なのだ。
 それだけ中国は古く、奥が深い国ということでもあろう。そうした流浪の民の歴史を秘めた客家人は、団結力が強く、一族を大切にする人々でもある。
 世界に名高い華僑の多くが、この客家人であることもうなずける。彼らは世界のどこに住んでも、故郷を、家族を、一族を忘れることはない。そして、いつの日か故郷に錦を飾ることを夢みているのだという。
 客家土楼の家は、そうした客家人の思いが投影された建築なのである。
 農業を生業とし、一族共同の作業を行い、自立自給の生活を行ってきている。が、最近は土楼の家を離れる人々も多くなり、そうした作業に翳りがみられてきているともいう。
 

 

   

 

 

 


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