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第1話 天竜杉

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また、明治22年に王子製紙によって、日本最初の木材パルプ工場が建てられたのが、この春野町だという事実も、人と森との結びつきの強さを感じさせてくれる。かなり早くから、町を挙げて林業に取り組んできたのだろう。町内にはそれらを伝える施設や、跡地が数多くある。
 天竜地域が植林を本格的にはじめたのが、明治に入ってから。つまり、スギ、ヒノキ、マツといった人工林は、この頃よりスタートしたといえるだろう。全国的に植林が一般化するのは昭和に入ってからが多いから、古いほうである。ここで現在の春野町の森林状況をみてみることにする。
 人工林は森林全体の75%、うち、その大部分がスギとヒノキ林で占められ、その約55%に及ぶ森林が35年未満の保育(下草刈り、除間伐、枝打ち等の作業)を要する若齢樹林となっている。枝打ちや、間伐の作業問題は春野に限った問題ではなく、全国各地の林業地域で深刻な問題となっているようだ。
 「木材が高値だった昭和40年の始めごろまではよかったが、今は間伐材は場内に放置するのがやっとで、とても搬出して商品とするまでは考えられない」と春野町森林組合組合長の岡本均さんは語る。木材の価格も深刻であるが、それ以上に林業後継者や、就業問題も限界にきている。町内の農林業就業者の90%近くが、45歳以上の高齢層で行われており、その数も、昭和40年度には2960人近くだったのが、平成11年現在では850人弱と、この35年間に1/3以下にまで落ちた。
 この背景には、数百ヘクタールもの大規模林業家ならともかく、10ヘクタール未満の小規模林家では、人件費の上昇や木材価格の低迷等から、人手を入れて山を手入れすることもできないという現実がある。しかしそのような小規模林家が日本全国の林業者の、実に99%(春野町では77%)を占めるという。こうした林業者は今はほとんどがやる気をなくし他に職を求めていっている。その結果、山は荒れに荒れはじめている。この林業熱心地、春野町であっても、例外ではなく、今回、森を見たなかでもいくつかの荒れた山に出会った。しかし、なにもこのような暗い話ばかりではない。
 「森林組合に、いま、20代の若い作業員が8人います」。これは、いままでは考えられなかったことだと岡本組合長はいう。捨てる神あれば拾う神もある。かつての林業とはどうも違ったイメージで林業をとらえて、森林組合に就業する若い人たちが増えてきているというのだ。いま、春野町森林組合(58人)は、こうした若手を迎えて、人手をなくした町内の林業家の山を管理しはじめている。そうした森林組合の行動を町役場も一体となって支援しているところに、他の地域と異なる春野町の強さがある。今後も、この森林と川の町は美しくあり続けられるのだろうと思う。

銘木というより、庶民材として広く受け入れられてきた春野のスギ

 国産材を1㎡当たり0.1㎡使用した住宅には、町が一棟当たり30万円の建設補助を出す。“森林の恵み利用推進事業補助金”。春野町が木材活用のために独自に生み出した対策案である。他にも町内の公共施設を可能な限り地元材で築いていく動きは、現・森下茂町長の代になってから一層活発になってきている。町立図書館、ふれあい会館、町福祉センター、木造3階建ての町集合住宅等、町内には多くの木造施設がある。経済課をはじめ建設課、総務課……。町役場を訪れると、全ての課が町内施設への木材活用を推進しており、農林業を支えようとしていることがわかる。
 いま、真実に町は木材活用の町づくりを目指しているのだ。そうすることが、この町の森林を、美しい川を、守り続けられる最も確実な道程であることを、皆が了解しているからなのだろう。

 気田川水系とその森林が生み出している、春野産の木材。特に生産の中心となるスギ材は赤みが強く、少し野趣味を帯びている。銘木としてよりも、むしろ一般建築材として昔から羽柄材として市場で好まれてきたのだ。しかしそれは春野産材としてではなく、あくまで天竜材としてのブランドとして流通してきた。
 

 

   

 

 

 


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