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第9話 西多摩杉

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東京都民1200万人を支える多摩川源流の森林
 
 4月の初旬、都心部では桜もそろそろ葉桜となる頃、多摩川上流域の沢井や御岳駅周辺ではその桜が満開で、花見時であった。さらにその上流、青梅線の終点、奥多摩駅からまた先の奥多摩湖や小河内ダム周辺になると、桜は堅いつぼみで、まだ山全体が冬の眠りの中にある。そればかりか、北斜面の雑木林の間にちらほらと雪の固まりを見せていたりもする。切り立った急斜面に雑木林と杉や檜の森がはるか彼方の山々へと重なり続く。東京にもこんなに深い山があるのだ。1200万人の人々が昼夜となくうごめく世界一の不夜城東京に、こんな鬱蒼と茂る森林があり、谷があり、沢があり、水が走る。どれだけの都民がこの森林の存在に気付いているのだろうか。
 都のデータによると、東京と全体の面積2186万キロ平方メートルのうち、その36%が森林で占められているという。分布としては、伊豆七島や小笠原諸島の島しょ地域と、この多摩地域を中心とした西部山岳丘陵地のほぼ2カ所に分かれていて、おおむね島しょ地が1/3、西部山岳丘陵地が2/3の比率になっている。この地域の森林のおかげで、私たちは一人あたり67㎡(全国平均では2034㎡/人)の森林に関わっているともいえる。都の平均森林率36%という数字も、多摩川源流地域に限ってみれば、77%という数字になる。これは全国平均の67%を超え、かなりの森林地域であることを示す。特にその中心部、奥多摩町や檜原村などでは町村の90%以上が森林となっており、これは森林地域で全国でも名高い吉野や北山、九州日田などとさほど変わらない。当然、多摩川源流地域の町村の基幹産業は林業である。東京にこれほど多くの森林があることにも驚くが、そこに林業で生きる多くの人々がいることに、さらに驚かされる。36%もの森林があるのだから、その森林を誰かが管理し守っていかなければならない。その当たり前のことを私たちはあまりにもわかっていない。
 そこで都の森林および林業実態を少しでも詳しく知ろうと、都の関係諸団体に取材協力を試みた。が、その結果はほとんどが非協力的ともとれる答えで、返事はあいまいなものだった。特にもっとも森林の現場に近いはずの森林組合に至っては、そうした姿勢がいっそう強くあり、そのことが、より東京の森林状況の深刻さを物語っているように感じられた。ひとことでいえば、森林所有者、森林組合、東京都などの動きがバラバラで、流れが機能していない、瀕死の状態ということだろうか。そうした上部組織のビジョンのない動きのなかで、森林所有者や林業者がよりいっそう厳しい状況に喘ぎ泣いているのだ。私たちは、あてにならない上部組織から、実際西多摩地域で森林活動を行っている“東京の木で家を造る会”(代表長谷川敬さん、事務局長稲木清貴氏さん)に取材協力を求めた。今回の内容は、“東京の木で家を造る会”を通して得たものが多い。
 林業を取り巻く状況は極端に悪い。長く続く木材価格の低迷、林業労働者の高齢化や減少、それに伴う人工林の荒廃といったことなどは、全国共通の問題である。本誌2000年3月号からの私たちの1年半余りに及ぶ全国の森林探訪記録は、いわばその最新報告でもあるのだが、東京の抱える森林および林業は、それらにさらに難題がいくつも重なっているように考えられる。
 東京の森林所有者を見ると、5ha未満の零細所有者が、全体の92%にも達する。これらの圧倒的に多数の零細森林所有者を林家と呼んでよいものか疑問は残るが、いずれにしても森林の一端を担っているのだ。20ha以上の所有者が423人で全体のわずか2%。その所有者が占める森林面積は4万3293ha。全体の60%に値するという。東京特有の森林所有者の零細化が兼業林家を生み、結果として山を見ない、山に入らない森林所有者を生み出していっている。木材が極端に安い最近では、20ha以上の森林所有者であってさえも割に合わない森林に人手をかけられなくなってきている。その結果、森林は荒廃と一途をたどっているのだ。林家が山に足を向けなくなることで、森林はある意味で無法地帯化されてしまうのだ。たとえば最近特に増えている産業廃棄物などの不法投棄や、飼うに困った犬などのペットの捨て場などにもなっているということなど。産廃や家庭ゴミなどの環境問題、野犬の増加などの問題も東京の森林ならではのことであろうか。
 

 

   

 

 

 


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