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第8話 北山杉

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  北山丸太の特徴はなんといっても、姿が美しいこと。それにはまず無節であること、さらに真円であり、元末同大であること。年輪が緻密で木肌が細やかで気品に満ちていることなどが挙げられる。こうした丸太をつくるには、ふたつの方法がとられている。そのひとつは室町時代にさかのぼる歴史のある台杉仕立て(一樹多幹法)と、明治以降主流になった一代限り皆伐仕立てである。台杉仕立てとは北山独自の丸太仕立てである。親株(台株)の上に4~5本の放射枝を残し、その4~5本の枝を長年かけて2代目の子台株に育てる。その子台株からたくさん萌芽させ、枝打ちを繰り返して末口3cmの丸太を採る。その材は年輪が詰んでいて強度が高いのが特徴だ。しかし施業に手間がかかり、商品になるまでにも時間がかかるとして近年は垂木丸太用に若干残るくらいである。台株から立つ多くの細い幹が美しいことから、今日では庭園の庭木として人気が出ているようだ。台杉仕立てに代わって北山丸太の主流になったのが、一代限り皆伐仕立てである。
 北山と他の林業地の違いは最初の苗木づくりに始まる。代々続く優良株から採取した枝の挿木による植栽。どの山のどの杉が磨丸太として最良であるか、林家はその親木探しに命をかける。また、幾代もかけて親木を改良していく。その頂点に絞り丸太があるのだ。
 京都府京都林務事務所の白石秀和さんからも同様の話を聞いた。白石さんは、天然絞り丸太に代わる、人口絞り丸太づくりに、北山の林家がいかに必死に技を競い合ってきたか、また針金の巻き方や、その下に挟む箸と呼ばれる材の変化などを話してくれた。それらの技術は各家の秘伝のようになっていたという。
 優良木から挿し木し、伐採に至るまで30~35年。この間一年を通し、下草刈りや枝打ちを繰り返す。北山の育林の真髄は、この枝打ちと伐採前の枝じめにあるという。夢節、真円、直通丸太はこれらの結果なのである。
 木の先端に少し葉を残し、急斜面に無数の針を刺したように林立する北山独自の景観は、この枝打ちや、枝じめがつくり出す風景なのだ。
 北山森林組合の吉田さんに山を案内していただいた。菩堤川に沿った山である。植え付けて間もない山から、伐採期を迎えた山、台杉仕立ての山まで、その姿は、大小様々、まるで緑の美しいモザイクの斜面を見ているようでもあった。谷を流れる菩堤川で吉田さんから一握りの砂を手に渡された。
 「この砂が北山磨丸太のもうひとつの宝です。この砂で北山の林家は丸太を磨きあげたのです」といわれた。丸太を磨く、最上級の、石英質を含まない柔らかい砂である。
 最上級の丸太をつくるには、最上級の丸太とその道具が必要なのである。枝打ちする鎌やナタを含め北山には、それがある。もうひとつは磨く技術と人だ。それを京都北山丸太生産協同組合理事長の中田正信さんにうかがった。丸太の荒皮を水圧機で剥離させ、次に背割りして加工、クサビ打ち、磨き、乾燥までの行程である。「単純なようですが、ひとつひとつに年季が必要です。何よりも扱う木の特徴を読み、作業しなければならない」
 この磨き行程が育苗、植栽から伐採に至る林業三十数年の終着駅である。その心がわからなくては良い磨丸太は生まれない。黄金の絞り丸太はそれらの中で数十万本に一本出るかの品物と聞いた。
 中川北山から、周山街道(国道162号線)を北に少し行くと北桑、京北町に出る。この先は茅葺きの里で有名な県境の町、美山町。そして福井県の小浜、日本海である。京都は太平洋ではなく、日本海に面している。そうした意味で日本海のめぐみを大きく受けた都ともいえる。その途中の京北町で櫓杉の風倒木を見た。ウッディ京北という地域振興や木商品の展示販売を目的とした建物の内部に置かれていた杉の古木である。樹齢600年、胸高周囲長5.1m。標高700mの山国地方で生育していたものであるが、その杉が京北や北山の台株杉の原木、発祥木ではないかともいわれる。ここ京北町の林業の歴史も北山同様古いものがある。森林率も総面積の94%、523キロ平方メートルと広大で、「京都府の屋根」と呼ばれたりもしている。北山がその立地を生かし磨丸太づくり一筋に今日まで精進してきたのに比べて、京北地域では木材を材積で扱う林業を行ってきた。たとえば構造材などの本来の林業に視点を定めてきたと見る。
 
 

 

   

 

 

 


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