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第8話 北山杉

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 京都府京北地方振興局農林課の池田和彦さんや、京都府京北町産業振興課の坂上谷隆さんに案内していただいた、京北のいくつかの施設や、森林組合の動きはそれを十分に伝えるものであった。京北は北山磨丸太という超有名ブランドを隣接地にもち、そのブランドの良さも生かしながら、それらにはないものを求めてきた。たとえば同じ磨丸太でも床柱や内装材にこだわるのではなく、桁丸太に代表されるような長尺のものや構造材としての化粧丸太づくりを特徴としている。私たちが森林組合の丸太保管倉庫で見たものは、末口30cm、長さ20mもの長尺磨丸太であった。住宅や一般木造建築材への材の提供だけでなく、町を挙げて木材の活用に取り組もうとしている。その一例が京北プレカット(株)の工場や、町づくりの一環としての「京北の家づくり」計画であろう。そうした町を挙げての木材活用と家づくりに対して、カモノセ・ログのように企業として、個人としてログハウスやポスト&ビーム構法のような新しい木材活用を図っている人たちがいる。それが強みだ。京北は古くて新しい林業地域なのである。
 北山、京北森林探訪の中で、多くの方々から林業界、木材界の深刻な不況を聞かされた。そのひとり茶道裏千家今日庵の根岸照彦さんの話は、その不況が構造的なものであることを伝えてくれる。
 「かつて住宅をつくろうとすれば、ほとんどが和風住居であったのが、今日では洋風住居となり、その中に一室くらい和室が残ればいいほうである。北山の磨丸太はその消えかけている和風住居に関わってきた。一方、丸太といっても垂木丸太から床丸太、化粧丸太、桁丸太、細いものから太いものまでさまざまあって、そうした丸太を扱う職人がほとんどいなくなってきている」という。北山杉の地元、京都でもこのような状態なのである。そうした木造建築技術者の減少や極端な技術低下を危惧して、今日庵では一門で茶室建築をつくれる職人を抱えていた。こうでもしないと裏千家の伝統的茶室建築の修復さえもできなくなってきているという。伝統的木造建築は、茶室や数寄屋の類ばかりではない。庶民の住まいもある。いわゆる民家である。美山町北地区の茅葺き集落は築200年から300年、江戸中期のものだが、入母屋の屋根をもち堂々とした姿は、少しも古さを感じない。北山型と呼ばれた民家である。現在、茅葺きの里として、岐阜県白川郷に次いで、重要伝統的建築物群保存地区として選定されている。日本の風景を支えてきた伝統的建築は、このような国の指定を受けるか、さもなくば裏千家のように一門として独自のものづくり組織を確保しなければ残されない危機にあるようだ。
 その危惧は、京都の町なかに出ていっそう強いものと映った。一部の重要施設は別として、今日の京都の町並み景観の崩れ具合はひどいものがある。まるで木造建築を蔑視するかのようにあちこちに町並みと無関係に、コンクリートや鉄筋のビルが建つ。木の国、日本。その木造文化を代表するであろう京都の町が、このような状況にあるのだ。
 北山の嘆きは、この景観の荒廃と無関係ではない(大きくみれば日本の林業界も同様であろう)。いかに良い木が生み出されても、それを使う場が、使える人が、技がなくなれば、単なる立木と同様になってしまう。個の領域に隠れることなく、いまこそ仲間を通し、組織を、町を挙げて新しい木造建築の開発や木の復権に努めなくてはならないと考える。
 私がかつて木場で出会った黄金の床柱。そうした柱の似合う家などは、もう幻の世界であると認識しなくてはならない時なのだ。

 

   

 

 

 


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