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第5話 魚梁瀬杉

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 魚梁瀬の森や施設をひととおり案内され、ダム湖近くの“杉の家”と呼ばれる和風のレストランで食事をした。千島笹の庭に白樺の生け垣。何とも質素で粋なつくりの庭を窓越しに見ながら、やがて部屋の隅々の木材の使い方やディテールに並々ならぬ器量と熟練の技を感じた。帰りの際、店の女将に他の部屋も見せてほしいと頼んだら快く案内してくれた。建物のほとんどに天然の魚梁瀬杉が使われている。しかし。材の使われ方はいたって控えめで、部屋全体の空間作りが優先されている。建築はこうでなくてはならない。いかに銘木であっても、その空間のひとつの部分なのである。そうした部分が全体を規制してしまうとか、これみよがしに目立ちすぎるのはいただけない。「だれの手がけた建築か」と女将に問うたら、「土佐派の建築家山本長水氏の設計である」と答えが返ってきた。
 あの奥山で200~300年風雪に耐え、育まれた魚梁瀬杉は、このような使われ方をしてはじめて意味をなす。まだ、この土佐にはこうした設計家や職人がいるのだ。魚梁瀬杉はそれだけでもほかの林業地に比べて幸せであると思った。

檮原の“四万十杉” 四万十川源流を支える森林の役割

 魚梁瀬と並ぶ、高知県を代表する林業地のひとつに、檮原がある。高知を森林の国と位置づけるには、海に生きる人々にとっては異議が残るかもしれないが、川の国ということには誰も異議はないだろう。それほど、高知には素晴らしい川が残る。その代表が、四万十川であるが、他にも負けず劣らずの美しい川がある。仁淀川や物部川である。もちろん、前述した魚梁瀬杉を上流域にもつ安田川や奈半利川も良い川である。
 こうした美しい川があるということは、その上流に素晴らしい森林があり、それをしっかりと守り支えている人々がいるという証でもある。
 残念ながら、全国の多くの県で今日、美しい川を見られることは少なくなった。それは、とりもなおさず上流地域の開発が進んだりして自然が荒廃していることを示しているのだ。
 川は森林文化のバロメーターでもある。良い川の残るこの高知には、まだそのバロメーターを一定水準に保とうとする意思が残されているのだろう。森林率84%の高知の森林は、そのほとんどが戦後植林された人工林である。人工林は手間暇がかかる。その人工林を守っているのは林業者である。林業の持続的経営の基盤づくりこそ高知の森林、ひいては美しい川を守ることにつながっていく。こうした県行政の意向があってか、高地名河川の上流には、小規模林家に代わって充実した森林組合があったり、それらが新しい森林資源活用に取り組んでいっている。仁淀川上流の嶺北林業地、物部川上流の香北林業地、そして四万十川上流というか源流域の檮原林業地などである。そうした林業の指導的役割を果たしてきている高知県森林局政策課の赤松幸夫さん、小原忠さんに話をうかがった。皆それぞれに、かつての天然魚梁瀬杉のブランドに代わる新しい木材生産や、商品づくりに試行錯誤しているのだという。私たちにはスムーズにいっているように見えても、広大な森林を抱える高知県には、そういった悩みも多いのだろう。人工林の活性化や、その材のブランド化、それなくして、高知の森林もそして美しい川も守れないのが事実である。

四万十川源流域の環境を支える檮原町森林組合とFSC森林認証

 四万十川源流域にある檮原町森林組合は、その源流域一帯の自然環境を生かした施業や長年に渡る森林経営と環境づくりが認められて、2000年の10月に国際的な森林管理協議会(本部メキシコ)よりFSC森林認証を取得した。日本では、三重県尾鷲の速水林業(本誌2000年5月号連載第2回目で掲載)に次いで全国で2番目の取得、団体としては初めてのことである。
 取得には檮原町森林組合1295人のうち94人と3団体が参加した。町内の森林面積のおよそ1割にあたる約2250haの森林が対象となっている。これはわが国のように小規模森林所有者が多い国にとって、規模の大小に関わらず、同じ目的意識を持ち力を合わせてさえいれば世界に認められると、将来の日本の林業に対して夢の広がるできごとであったと考える。取得に向けて苦労話や檮原町森林組合の森林経営方針を組合長の中越利茂さんにうかがった。「現在は94人であるが、将来は全組合員に参加してもらい、町の森林すべてにFSC森林認証を得ていきたい。それが実現した時、初めて四万十川の清流が守れる」と語る。私たちは、そうした思いが込められた檮原のFSC認証林を訪ねた。

 

   

 

 

 


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