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第7話 魚梁瀬杉

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樹齢300年の魚梁瀬杉と銘木としての価値

 かつて土佐を潤し、四国を沸かせ、全国に名をとどろかせたその魚梁瀬杉の森林を探訪することができた。案内をしていただいたのは、案芸林業事務所の山口一尚さん、(株)エコアス馬路村の宮村友世さんたちである。天然の魚梁瀬杉の森林に入るには、魚梁瀬からさらに数km奈半利川沿いに奥に入る。そこから千本山保護林を探訪するのが一般的である。時間の都合で、私たちは千本山保護林の奥には入れなかった。そうした悔いは残るが、奈半利川を渡り、その森林に少し踏み入っただけで、魚梁瀬杉の天然林がいかに素晴らしい山であるか、十分に理解できたと思う。
 天然魚梁瀬杉の、凛として聳え立つその姿は、すべてに気高く見えた。一見周囲を圧倒して立つように見えるが、けっしてそうではなく、直径1~2mもある大樹は、その幹の周りに大小さまざま、数多くの草木を優しく抱いているのだ。森林の巨木と思える大樹であればあるほどその傾向は強い。そうした魚梁瀬杉の大樹を中心に、様々な植物、いや生物が生み出す調和といおうか、ひとつの程よいまとまりが、私たちの心を打つ。生態系などという言葉よりも、この光景は、より私たちの生の生活に近い家族、それも数十年、数百年かけて築き上げてきた森の聖なる家族にも見えてくる。
 200~300年たつという森林には、共通して1本の大樹に寄り添うようにして混生し合う、無数の命の輪がある。それが訪れた私たちの胸を熱くするのだ。魚梁瀬千本山はそのような大樹が集まり、標高1000mの山々に続く一大森林なのだ。それらの中でも、ひときわ目立って立っている“橋の大杉”を見た。胸高直径212cm、樹高54.2m、材積38.31㎡と標識に書いてある。下に立つと、はるか上空に枝葉が茂る。そのいく層にも重なる枝葉より無数の光が注ぐ。暖かいその光を浴びているのは、次の世紀、いやその次の世紀にか、魚梁瀬の天空に立つであろう幼樹たちである。“橋の大樹”もいつかは天然更新されるのだ。その根元に平成元年と記された大杉の記録標識が落ちていた。胸高直径196cmと書いてあるのがかすかに読める。驚いたことにこの大杉は、この10年の間に直径で6cmも生長しているのだ。
 現在の魚梁瀬天然杉の平均樹齢が250年くらいといわれているから、この大杉はそれよりはるかに老齢で、300~400年は優に超えているだろう。それでも魚梁瀬杉は成長し続ける。
 魚梁瀬杉の特徴は他にもある。樹高のわりに枝下が高いことや、樹幹の太さのわりに枝張りが少ないこと、日陰でも成長するなど、林業家からすればこのうえない良樹なのである。

銘木は使う人の技によって再び生かされる

 林業家にとっての良材である魚梁瀬杉は、木材となってもとびきりの銘木である。
 天然魚梁瀬杉を当地で昭和の初期から製材する魚梁瀬木材(株)の製材工場を訪れ、そこでベテランの銘木製材職人、枦山さんに会った。
 山から伐り出された杉丸太は、少なくとも半年、多くは1~2年丸太材として寝かせ、製材にかけられるという。「魚梁瀬の良材は、淡紅色。木表に近づくほどにきめ細かくなる。その木目を読んで製材する。樹芯から樹皮に向かって美しい笹杢を何枚取るか、そこが職人の腕の見せどころ」と語る。極上の天井板とは、板厚7mm、幅50cm、長さ2m、淡紅色の笹杢板を指す。8畳間の和室の天井を張るとして、その材価は6~7万円/坪、全体で50万円前後、この価格をどう見るか、クロスや合板では得られない天然魚梁瀬杉独自の重みと深さの感じられる部屋ができるともいう。銘木の使い方をきちんとわきまえて使用すれば、確かにその通りであろうと話を聞きながら思った。なぜなら、成金趣味のごとく家のあちこちにところかまわず各地の銘木を張り巡らし、それでよしとする名建築といわれる“迷建築”をよく見かけるからだ。立場上、ときに案内され、意見を求められることがあり、それに辟易しているのだ。せっかくの銘木、迷材が泣いているというもの。資源の無駄遣い。高い金を払っただけで、それならまだクロスでも良いのではないかなどと思ってしまう。
 
 

 

   

 

 

 


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