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第5話 青森檜葉

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 森林構成群としての天然青森檜葉―下北半島大畑檜葉施業実験林から

 下北半島の太平洋に面した大畑町から、10数km内部に入った大畑川沿いの南斜面の山岳地、約222haが、大畑檜葉施業実験林である。この周辺、大畑町から実験林までの一帯は、?や水楢の混生した景観を示す。近くは奥薬研温泉郷とも呼ばれ、大畑川の渓流があることから、各地から岩魚や山女を求める釣り人や、ハイカーも多く訪れる。
 実験林を案内してくれたのは、下北森林管理所大畑事務所長の勝浦浩二氏。「実験林は昭和6年に設定されました。最近は林業関係者だけでなく、一般の人もこの森を見学に訪れます」という。たしかに、檜葉だけでなく、ブナや他の多くの広葉樹や草花が混生し合う森林は歩いていても気分がいい。森林構成群は、ひと抱え、ふた抱えもある巨大?や水楢、檜葉等の老樹から、幼木、草花、昆虫、小鳥、小動物、微生物まで森林の仲間すべてを指し、それらがそれぞれ影響しあい、有機的に結びついて成り立っている。森林構成群は高度や地形によって異なる。この222haの実験林は森林を20ブロックに班分けしている。「当然、高度の低い場所と高い場所では、檜葉と混生する植生群は変わってきます。川沿いの低地(標高65m)では、水楢、小楢、朴等の広葉樹と檜葉の混生林になるが、標高が高くなるにしたがってブナ林が多くなっていき、山頂(標高404m)近くは、すべてブナ林になっているんです」と勝浦氏は述べる。さらに檜葉の高度適応は一般に標高350mくらいだともいう。勝浦氏のいわれた、檜葉林と広葉樹林の混生分岐景観を私達は後日、この大畑檜葉施業実験林に近い日本三代霊場のひとつ、恐山の森で見ることができた。薬研から恐山に、車で1時間ほど参道を登るにつれて、植生の変化の様子が手に取るように分かる。低地での小楢、栗等との檜葉群落は、山の中腹にかかると、杉、水楢、栃等の混生となり、やがてはブナ林との混生が始まる。それらの明確な境界はわからないが、恐山の頂上近くになると、枝が四方に張り、株立ちした立派なブナの巨木が多くなり、檜葉の姿が少なくなってくるのがわかった。檜葉の良木の生育は、やはり標高の高いところでは無理なようである。
 さて、話をもう一度、大畑檜葉施業実験林に戻そう。「地形等によって20ブロックに分けられた林班は、1年に2ブロックごと定めて施行する。したがって、10年で循環します。こうすることで、檜葉の永久的な施業を目指しているのです」と、勝浦氏はいわれる。森林の生態系を重視しながら、そうした天然林の中で形成不良を除いたり、檜葉の優良木への誘導を図っているのだ。設定以来、いっさい手を加えないという順檜葉林のブロックを案内された。
 直径70~80cm、樹高30mに近い老木から、直径20~30cmの青年木、枯れかかっている木々から若々しい稚樹まで、森林はくまなく檜葉一色で埋め尽くされている。檜葉の厚い葉が天空を覆い、地上に光はわずかしか届いていない。はるか昔の古代の森林景観を彷彿とさせるかのような不思議な光景である。そのわずかに地上に射す光の中で、檜葉の稚樹が緑の葉を寄せ合っていた。人間の膝下に満たない大きさで、その小さな姿でも、もう20~30年は経つという。檜葉の稚樹は、耐陰性が強く、暗い林内でも何年も生き続け、枯死しない。1mの高さになるのに50年費やすものもある。老木が枯れたり、倒木があったりして頭上から陽の射す日を幾年でも待ち続けるのだ。薄暗い純檜葉林床に眼が慣れると、頭上高く聳える檜葉にもいろいろな表情があるのに気づく。すっくと立つもの、いくつも途中から幹が枝分かれするもの、曲がったりねじれたりして立つものなど。檜葉の樹肌の状態もいくつかのパターンがある。一般に、赤茶のすべすべした“イモ肌”、杉に似た“スギ肌”、檜に似た“ヒノキ肌”の3種に分けて呼んでいるようだ。
 こうした純檜葉林だけの山は、他の植生が入りにくく、林床が荒れて比較的、災害にも弱く、結果的には檜葉の生長率も落ちるという。他の広葉樹や植生と相互に共存しあってこそ、優良檜葉が生まれるのだ。その比率は檜葉80%、広葉樹20%くらいのバランスが理想であるという。戦後、間もなくの松川翁の森林構成群を大切にしながらの天然檜葉施業法は、森林環境の生体を重視する今日の世界的動向を先取りした新しい考えだったのだろう。その翁の天然檜葉に対する思いが、結果として今日見る青森の檜葉と広葉樹が共存しあう美しい自然景観をも救ったともいえるのだ。 
 
 

 

   

 

 

 


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