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第4話 吉野杉

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 平均気温14℃、積雪量30cm以下、年間降雨量は日本最大の降雨地、大台ケ原を控えていることから、2000mm以上の多雨地域となっている。急斜面値に降った雨は、樹木と保水性・透水性に富んだ秩父古生層と植質土壌によって蓄えられる。やがて谷筋を流れ、集まって渓流となり、全て吉野川に注ぐことになる。こうした3村の気候・地形・地質の特性は、杉や檜の森林をつくるのに最適な環境であるという。3村の平均標高600~1600m。まれに見る急峻な山々が連なる山岳地だ。家々は、軒を寄せ合うようにして中腹の緩斜面に立ち並ぶ構造をとる。吉野林業を代表する3村のひとつ、川上村の高原や白屋の集落は、標高700~800mの山服に、ほぼ等高線に平行にかたまって築かれていた。集落の周辺まで杉や檜の山が迫っている。迫っているというよりも、杉、檜の茂る斜面の一角に集落を設けたといった方がよい。それほど見渡す限りが急峻な斜面であり、杉や檜の山であり、平坦地が少ない景観である。川上村の村有面積270キロ平方メートルは、大阪市の206キロ平方メートルより広い。村の97%が山林である。人口は大正から昭和30年半ばごろまでは8000人前後をキープし、昭和35年頃から急激に減少しはじめて、現在はピーク時の4割以下、2800人前後で落ち着いている。国内林業の低迷や奥山地域の過疎化が重なってのことであろうが、日本三大美林の本拠地、吉野、川上村でこのデータには驚かされる。この人口の現象は逆にとらえると、村がいかに古来、林業を基幹産業としていたか、いかにそのことによって村が栄えていたかを物語っている。林業のピーク時は、おそらく多くの林業労働者や関係者が村を訪れたり、居住していたのだろう。
 
伝統的な檜丸材に秘められた吉野銘木の特徴
 
 吉野川の上流地域は自然の恵みも受け、古くから、松、杉、檜、樅、栂、朴、榎などの原生林に恵まれていた。これらの樹々は、吉野川下流の大和平野や畿内の神社・仏閣の建設や、平安・平城京などの都づくりに利用されていた。豊臣秀吉の時代になって、特に大阪城や伏見城などの巨大城閣用材に使われ始める。その結果、大規模な範囲で原生林が失われることになり、そうした原生林の伐採の跡地に、杉を植えたのが吉野杉人工林の始まりであるといわれている。川上村では文亀年間の1501年に植林が行われたとうい記録が残る。500年も前にすでに人工林の育林が始まっていたのだ。1620年に大阪に木材市場が開設されると、吉野川を介した河川運搬の便利さもあって吉野材は当時、不動のものとして取り引きされた。その結果、原生林はどんどん少なくなり、杉の人工林が増えていく。県の調査によると、川上村には江戸時代初期に植えられた、樹齢380年の下多古村有林を筆頭に、300年生前後の人工林がいくつか残っている。150年以上の杉林がおそらく140ha近くあるという。
 吉野では、120年以上たった杉を選木と呼び、銘木というには150年以上の樹齢が必要であるという。他の林業地域では信じられないような長伐採期の育林を目指してきたのだ。吉野杉をこれほどまでに長伐期、大径木にさせた要因に、建材というよりむしろ、酒樽材(樽丸)としての需要が多かったことが挙げられる。吉野周辺には灘や、伏見の名酒業があり、香気に富んで、鮮紅色の木肌をもった吉野杉は、漬酒の樽や桶材に最適だったのである。
 江戸中期1700年代から樽丸需要は増大し、その利用はガラスやプラスチック容器が主流となるつい最近まで続くのである。したがって、吉野林業の課題はいかに樽丸に合った良木を生み出すかが基本であり、その育林技術が吉野独特のものとして体系化されていった。樽丸として最上の杉とは、まず第一に無節であること。第二には年輪が均一でかつ、詰んでいること(1cmの幅に年輪が6~8本入る)。第三に鮮紅色で色つやが良好であることなどが挙げられる。当然、こうした立木をつくるには相当の手間と年数がかかるのだ。
 吉野町丹治にある栗山樽商店の栗山氏の話によると、「酒樽の側板の最もよいもの、甲付丸は、樹齢80年前後の杉がよく、樽底用板には樹齢120年以上の選木、杉赤身材が最良である」という。当然、こうした材は建築材としても最高級品となる。吉野は優良な樽丸材の生産を目指すことで、結果として建築材としても一級品を生み出したのだ。  
 
 

 

   

 

 

 


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