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第3話 日田杉

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九州の山深い内陸地、筑後川の源流域が日田杉を生む

 10万haのスギ森林景観。美しい森林景観に県境はない
 日田林業地域は、大分県の西南端に位置する海抜1000m級の山々が林立する一大山岳地帯である。地域の北部は日田市。中部から南部にかけては新田郡(大山町、広瀬町、前津江村、中津江村、上津江村)が占める。おおむね東西20km、南北48kmの地域を称して日田林業地域と呼んでいる。行政区分からすると大分県になるが、南部は熊本県の小国や阿蘇の山岳地帯、西武は福岡県の山々に囲まれている。植生からすると森林のほとんどが、スギの一大民有林景観地域である。地上からはもとより、上空から見ても、県境の区別はできない。この3県にまたがるスギの景観10万haは、育林や森林施業法が、皆同一方法をとっていることや、各の山岳地を流れる無数の渓流が全て筑後川に流れること、つまり筑後川の一大水源地でもあり、3県の人々の生活慣習は、風景同様に、皆似通っている。かつては、この一帯の森林では“木場作”を基盤としたスギの挿し木増殖を造林の基本としていたという。“木場作”とは、日田林業地域では“刈野作”ともいわれる一種の焼き畑、切り替え畑をいう。森林の伐採後、スギの造林が行われる前の数年間、山林の斜面を焼き畑とし、切り替え畑に使用した。切り替え畑には麦芽、豆、栗、芋などの農作物をつくり、収穫した。林床を焼き畑にすることで、結果として土地の保水力を高め、地力消耗を補うという、いわば一石二鳥を狙った、農業と林業の混合作であったのだろう。日田山系の厳しい自然環境を考えると、さぞかし、つらい仕事であったのだろうと想像がつく。いずれにせよ、そうした厳しい自然に挑んできた日田林業地域の人々の知恵や労苦の蓄積が、この山岳地の美林景観となり、今日までそれを支えてきたのだろう。

 日田の底霧と筑後川が日田杉を生んだ
 “日田の底霧”とは、秋・冬の地表を覆うこの地域独特の霧の景観をいう。昼夜の寒暖の差が激しいことや、多湿、多雨の気候が日田の美林をつくっている。平均湿度75%、年間132日が深霧の中にあるのだ。日田を代表する森林地域、南部の上、中、前の3つの津江村の降雨量は、2500mmを超える。そうした湿度の高い気候の中で日田杉(南部のものは津江杉ともいう)が育林されている。日田林業を飛躍的に発展させた要因に、そうした気候条件と山間を編み目のように流れる無数の小さな川、それを集めて筑後川に注ぐ、川原川、津江川、大山川、玖珠川、三隅川などの存在がある。川上地域で伐採された木材は、これらの川や陸路を利用して筑後川へと集められ、筑後川を筏で下り、下流の家具製造で知られる福岡県の大川市まで4日かけて運んだという。昭和38年に日田市と福岡県の境にできた夜明ダムの完成によって、筑後川筏流し300年の歴史が終わったのだ。その後は、鉄道や車などの陸路での木材輸送の時代に入る。その歴史が示すように、日田地方の植林の歴史は古い。一説によると、約500年前(1490年頃)に中津江村の宮園神社境内に杉の直挿しを行ったのが始まりとある。本格的な造林は、250年くらい前の江戸時代からである。それ以来、日田は各地から良木の品種を選別し、杉の挿し木植えを行っている。ヤブクグリ杉、ウラセバル杉、アオ杉、イシ杉など、日田地域に適合する杉苗が次々に登場する。1ha当たり3000本前後の植栽を基準とするが、1000本以下の場合もあり、基本的には疎植である。
 日田地域の総面積6万6610ha、そのうち83%弱の5万5169haが森林面積で、内96%に当たる面積が民有林。さらに、その80%近くが人工林で、杉林となっている。この比率は、川上地域の郡部に行くに従って、さらに顕著となる。平成3年9月に日田地域を襲った台風の被害は多大なものがあった。人工林が多く良木の挿し植造林であったことも、その被害を大にした要因であるといわれる。挿し植は実生の苗と違って、材としては良木であるが、災害に弱い。つまり、良木のクローンなのである。日田では、それを契機に災害地の急斜面にケヤキなどの広葉樹を植え出した。単一樹種の人工林に対する、大きな転機がきているのだ。これは風倒木処理で辛酸な目にあった日田林業地域だけの問題ではない。全国各地の林業地域に共通していえることだ。
 

 

   

 

 

 


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