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第2話 尾鷲檜

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 速水林業の森林づくり
 人工林でのFSC認証取得は、世界でも珍しいと言われる、速水林業の森林を、速水亨さん自らが案内してくれた。現在、速水林業は海山町を中心に1070haの森林経営をしている。そのうち820haがヒノキの人工林であり、樹齢30~35年の山が87ha弱と最も多く、次いで70~80年前後の山を頭に、以降平均的な面積比率だ。人工林としての蓄積は12万4000㎡、年4000㎡の生長が見込まれている。平成10年度の伐採量3900㎡は、年間の生長量以下の伐採量、しかもその大半が除間伐で生産されているというから見事な持続経営である!林業雇用者23名、全員がFSC取得に積極的に努力されたと聞く。林業にかける従業員の思いも熱いのだ。
 案内されたのは、尾鷲湾に面した北引き本浦に注ぐ船津川沿いの一部に平坦な土地を残す意外は、30度以上の急傾斜面地で、地上までは380mある。
 途中、比較的平坦な谷筋で、速水林業の拠点となる著牧場、作業場、機械倉庫、休憩施設等を見ることができた。施設の整理整頓はもちろんのこと、器具や道具のリサイクルを含め、様々な個所に環境を配慮したアイデアが生かされていた。

 荘厳なまで高められた美しい森、それは森林建築だ
 「林業は自然を使っているのだから、その自然の使い方に注意しなくてはならない」。そうした当たり前に見える自然に対するひとつひとつの小さな試みが、配慮が、林業実践となって太田賀の森をつくっているのであって、決して特別な環境づくりを目指したのではないと、速水さんは言う。
 しかし、その森林に一歩入ると、他の人工林の森とは全然、違った景観がそこにあることに気づく。
 地表を覆ったシダ類が、ここではたっぷり人間の背丈ほどある。それがヒノキの林床を隙間なく埋め尽くしている。上から見ると、まるで巨大な緑のベールだ。この緑のベールとも絨毯とも見えるシダ群が、ヒノキの足下の乾燥を抑えたり、大雨による土砂の流れを防いでいるのだという。
 また、その鬱蒼としたシダの群生の中には、イノシシのけものみちがあり、小動物の棲息の場ともなっている。そして森全体が猛禽類までの生態系をかたちづくっているのだ。
 その緑のベールから上部に突き出しているのが、ヒノキなのだが、この森林には、シダとヒノキとの中間にもう一層の樹木が適度な距離を保ち生い茂る。サカキやヒササカキなど、常緑の中低木の層である。高木の層としてのヒノキ、中低木の層としての常緑樹、地表を覆う層としてのシダ類の、大きく3つの層が、森林空間を創っている。一瞬、誰もが、自然林にいるかのような錯覚をする。それほど、調和のとれた森林景観だ。この姿を人為的に創っていくのが速水林業なのである。

 

 林業の役割と環境問題の現状、そして尾鷲材、山林家、森の未来

 次に案内された明治38年に植林されたヒノキ林は、木材を産出する森林というより、私には3層、3色の緑の創作空間、癒しの場に思えた。
 直径目通りで30~40cm、樹高25mの垂直に林立するヒノキ。その上空より差し込む日の光は、中低木の常緑樹の葉先で輝き、反射して、周囲のシダの葉波を優しく照らしている。何か不思議な緑の世界。これは建築である。荘厳なまでに美しいヒノキと、その下部層の植生が生み出す、緑の森の建築なのである。一人の建築家として、速水さんの森林をうらやましく感じた。
 

 

   

 

 

 


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