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第2話 尾鷲檜

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 尾鷲材は一夜にしてならず。脈々と続く林業の教え
 「尾鷲地方森林施業法」は、文章として残る林業技術を伝えるものとして、大規模山林家の土井本家が明治30年に記したものであり、それは今日の尾鷲林業の礎となっている。
 尾鷲檜のブランドは、なんといっても、赤みの強い、無節に近い芯持ちの柱材である。これを生み出しているのが、1万本/ha前後の苗の密集植えの技術と育林、管理方法である。一般の植林がせいぜい3000本/haを基準にしているから、その多さがわかると思う。1坪(約3.3㎡)当たり3本近い植え込みを行い、それを材の生長に従ってていねいに除間伐を行っていく。密集植は、多雨、多湿、高温な地域での下草の繁殖を抑え、苗の生長をいっそう促すことと、光を求めてヒノキの若木が上長生長を絶えず行うためには欠かせない。若木が生長し、互いに密集し過ぎても、材の生長や、品質形成に問題が残る。そのバランスを生み出すのが難しいという。
 商品として市場に出す芯持ち柱材の良材を得るのには、50~60年の育林が必要となる。痩せ地で生長の悪い尾鷲の地盤では、50年前後で胸高直径で20~22cmにしかならない。そこから3~4寸角の柱材をとる。除間伐を幾度も繰り返されたヒノキの山は、この柱材をとる50~60年期で約1000本前後の山となっている。8000本の植林されたヒノキは、約7000本近い除間伐が行われた計算になる。尾鷲地域の強みは、その除間伐材の木目細かな活用と商品化にある。材は丸太の太さ、長さ、形状ごとに仕分けされ、土木用材から足場丸太、磨き丸太や建築内装材、さらには家具や生活用品の小物にまで商品化されている。
 こうした木材の加工から製品化までを、地元で行ってきているのも尾鷲の特長である。

 赤羽川が生み出す森林
 紀伊半島の赤羽川流域のヒノキ森林を探訪した。案内をしてくれたのは、当地の大規模森林家、長井武彦さんである。長井さんは、森林組合おわせの組合長と、三重県森林組合連合会の会長もつとめている。右手に赤羽川、左手にヒノキ林を見ながらの風景が続く。この上流は、紀伊の屋根とも言われる大台ケ原の山々や、大杉谷の峠谷である。赤羽川を3~4km上ったところから林道に入る。車一台がやっと通れる道だ。2月というのに、背丈1mほどのシダが青々と茂っている。そのシダの間から、すっと伸びた灰褐色のヒノキの幹が線状に無数に、小山から急斜面地へ続いている。林道沿いの左右の山は、一面、ヒノキ林で埋められている。植えて間もない苗木の山から、10年前後のもの、30~40年たったヒノキ、それぞれに、茂るシダの中に、ていねいに管理され育林されているのがわかる。「これが昭和9年に植えられたヒノキ山です。親父が植えたもので、もう伐採期を過ぎているのだが、こうして斜面に立ち並んでいる樹々の姿を見ると伐る気になれない」という。それは、60~70年も守り支えてくれば、一木一草にも愛着がわくということと、現在の冷えきった木材市場を憂いてのことなのだろう。
 「最近は、良質のヒノキ柱材の需要が少なくなり、値下がりして割にあわなくなってきているのです。だから山林家は、50~60年伐採期を見合わせて、70年、80年と時間をかけ、長伐期材へ移行しようとしている」と言われる長井さんの顔は、厳しいものがあった。
 尾鷲檜は芯持ち柱材としてブランド化され、その柱の美しさや強靭さゆえに、全国にその名を知らしめているのだが、長伐期大径木材による、内装材や板材、内法材への方針変更は林業家にとって本当につらいことだろう。なぜなら、芯持ち柱材の育林方法と長伐期大径木材の育林方法では、基本的に異なるはずであるから。
 林業三代と言われるような、時間のとてつもなくかかる職業に、やり直しは不可能に近いのである。

 里山の教えから学ぶ、人と森林の共生
 森林を木材生産の場として山に求めた、かつての林業方法は、今大きな反省期にきている。無計画ないっせい皆伐が、環境を破壊していることや、生態系を無視した育林が、大雨や台風に弱く、結果として、林業経営としての失敗につながってきていることもその反省材料のひとつである。
 森林のもつ社会性や、環境を通した公益的機能性をこれからは、より高めていかなくてはならないとした動きが、今尾鷲を中心に起きている。
 

 

   

 

 

 


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