建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第57話  バルト海の集落と住居
      屋根、民家のかたち
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
民家の仕組みや構造は築かれている地域の自然環境と、深く影響しあって出来ている事はこれまで幾度も述べてきた。
 
この場合の自然環境とは、気候、風土に始まりその地域が育む資源等である。それらの諸要素に民家は建築全体として対峙しつつ、又時には部分で対応したり、巧みに利用するしたりする装置なのです。生活の為に必要な道具やものも同じであると思う。
 
厳しい自然環境下にあって、自然への対応の仕組みが疎かだったり、弱ければ
「ものや部分」は破壊されてしまったりする。それが人々の住処ならば家族の生死にも関わることになる。こうして「ものや部分」は永い間により環境に適合するよう改良を繰り返し、そして人々に本当に必要な部分だけが残るのだ。
 
民家はそうした「ものや部分」の集合体なのである。だから民家は多様な要素がからみ合って成立しているにも関わらず、各々の仕組みは洗練され、しかも個性的で美しい。そのかたちは、見ていても飽きない。
 
少し大袈裟に言うと、民家はその環境で暮らす人々の自然了解の合意表現であるし、さらに付け加えるなら集まって住む人々の約束事や、集団の堅固な結束ごとの形象化されたものとも考えられる。これはまさに自然に挑む人々の、生き様の巨大なアートのようなもの。だから逆に民家やものの形を観察すれば、それなりにその背景となる自然や、人々の心、生き方等の特長を理解出来るとも言える。
 
例えば自然環境に最も影響を受け易い屋根について考えてみよう。雨や雪の多い地域では、それらに対応し屋根は急勾配を取るし、軒下の機能から軒や庇は深くなる。一方、砂漠や乾燥地のように雨、雪が少ない地域では、屋根は傾斜を失い、床と同じようにフラット化する。
 
エストニアの野外民族博物館で見た民家は、日本の民家に非常に似ていた。アジアの地でならともかく、白夜の地ヨーロッパの辺境でのこと。日本の地域で言えば、南より東北や日本海側の民家のかたちに近い。なかでも屋根の造りと形状、軒下の構造等はそれらと酷似しているように思えた。
 
殆どが大屋根の寄せ棟形式で急勾配の屋根。しかも茅葺き屋根で厚さ1m程に藁を積み上げ、端部を揃え綺麗に刈り込んでいた。驚いた事に茅葺き屋根の上端、つまり棟部分には両側から丁寧に竹が差し込まれ棟押えがされていた。これは日本の多くの神社等に見られる棟飾り、千木のかたちにそっくりでないのか。
 
その千木に似た飾り棟から軒先きへ、緩やかな曲面の藁屋根が葺かれ、出入り口周辺で藁屋根は、大きく切り込まれ深い軒下を生み出していた。その軒の下には奥行2mもある板の間が、軒に平行に設けられている。内部の部屋と外との間に設けられた、内とも外ともつかない場である。その天井からブランコが取り付けられていた。きっとお年寄りが板の間で農作業をしながら子供をあやしたりしたのだろうか。
 
それまで薄暗い軒下、巨木の丸太壁、そして分厚い木板の床に目を暗ませていたが、よく観察すると何のことは無い、これはあの懐かしい日本の縁側でないのか。造りも利用法までもまったく同じように見えます。類似点を探すどころか、その違いを見つけるほうが難しい。
 
穀物の藁や、野の萱、荻等を屋根材として利用する例は世界の多くの国で見られる。しかし屋根形状から、縁側等、軒下の仕組みまでがこのように類似する例は数少ないだろう。
 
遠く離れた各々の国で、同時に同じような民家のかたちが生まれていた。それらの中には、そうした距離や自然、気候風土を越えた人間の計り知れない共有する意思が潜んでいるようにも感じられた。
 
母屋にそって歩くと相対して少し小さい棟が建てられ、離れて幾つかの納谷や家畜小屋のような棟が見られる。それらがすべて寄せ棟の藁葺き屋根の建築になっていた。周りに妙な木柵が巡らしてある。姿、形の異なる無数の小丸太を斜に組み上げただけの、素朴な木のオブジェのような木柵。
 
日本ならこのような丸太の使い方はしないはず。その単純な木柵のかたちの中に藁葺屋根と違った反対の強い異国性を感じた。一見同じように見えた民家の中にも、計り知れないような共有の意思もあれば、それと同じくらい、相反の意思もあるのだ。改めて民家の多様さ、自然の解釈の相違、民族の違いを思い知らされた。
 


 

 
 

   

 

 

 


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