建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第55話  バルト海の集落と住居
      市民の自由広場
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
西洋の街や集落を訪れると、必ずと言ってよい程に広場に出会う。私達日本の街や集落と比較した時、街並を彩る建築群の形状や、素材の違いのみが浮上して目立ち、そうした広場の存在を気付かないでしまうことがある。しかし暫くその街や集落に滞在すると、広場が実にその街に機能している事が分かる。
 
もちろん私達のかっての集落や街の中に広場的な機能や役割をもった場(例えば寺や神社の境内、長家の井戸等)は存在するが、西洋の広場と比較するとそれは極めて曖昧な場所であったように思うのだ。この広場の有る無しが、私達の街と西洋との大きな違いでもあると考える。
 
そこでその広場について少し考えてみたい。集落を訪れて様々な広場に出合うのだが、それらの中心になる施設内容を観察すると大きくは二つグループに分かれるように思う。一つは教会や城郭、宮殿等が中心になり成立しているタイプである。言ってみれば宗教的な場や、支配者、権力者の施設が中心になり広場が出来ているもので、私達集落調査グループはこれらのタイプを仮に「儀式的広場」と呼んで他と区別している。これらの広場の特長は、訪れる者や利用者へ構えた構造をとることだ。建築も広場も美しく飾られているのだが、その美しさも成立時代ごとでパターン化され、権威を誇張しどことなく威圧的である。形の多くは対称形を好み、矩形や円形等の明確な幾何学形状を取るのも特長である。
 
第ニはそれらと対極にある集落の日常的な施設(例えば住居や商店等)が中心になり成立している広場である。物の売り買いの為の市が立ったり、さらには農作業等の場にも利用されたりすることもある。教会や権力者達の儀式的広場に対して、こちらは背後の住居や日常の生活と密に関係を保ちながら成立している。だから広場もその周囲の建築も多様であり、あまり様式等にとらわれず自由な形状で築かれている事が多い。私達は「日常生活的広場」とか「生産的広場」等と呼んでおり、自然環境や、人々の暮らし振り、集落各々で異なった広場の形状を示したりする。比較的小さな村や街に多くみられ、集落探訪で出合う楽しみの一つでも在る。
さてこれから報告するタリンの「ラエコヤ広場」はそのどちらにもあてはまらない自由の広場に思えた。
 
タリンがハンザ同盟に加わる13世紀頃にはすでに、この広場は現在のような姿に出来上がっていたと言われる。広場の成立の歴史は定かでないが、この広場を有名な広場とさせているのは広場に面した施設群で、市民の為の集会、会議場が中心になって出来ている事である。つまり今流にいうなら市庁舎か市民センターのような施設である。
 
当時ヨーロッパの名高い広場の多くが、前記した教会等のような施設が中心になって築かれていたのだから大変異例であろう。広場の中心が神や、権力者でなく市民なのである。
 
この広場には他にも市民の生活になくてはならない施設が在った。薬局である。つまり市民の健康を司る薬が市議会施設と一体化し、市議会薬局施設として広場の一翼をになっていたのである。この薬局は現在も営業を続けておりヨーロッパ最古の薬局となっているらしい。他にも市民の生活に必要な店やハンザの建築が立ち並び、本来中心となるはずの教会施設は、広場から離れて建てられていた。
 
城や王宮施設等の支配者の施設もこれらの広場とは別のエリアの城壁の中に築かれているから、ラエコヤ広場は真に市民の為の自由広場と築かれ、その役割を今日までになってきている。宗教にも、そして誰の手にも染まらない広場は今日では当然であろううが、千年も前にそうした広場が築かれていたのだ。
 
広場の大きさは6500平方m、北側に膨らんだ台形状をしている。花崗岩の石畳の表面が数cmもすり減り、日を浴びて照り輝き、この広場の歴史を伝えているように感じられた。かって広場は市民の集会に始まり、市が立ち商品の売価いや様々な模様ごとに利用された。時には罪を犯した人の裁判、絞首刑の場にも利用されたと言う。
 
市民の為の自由広場、ハンザ同盟で栄えた都市として、内部に暮らす市民だけでなく、この都市を訪れる多くの異邦人達の喜びや悲しみ、生と死、善悪‥‥‥様々が交差し昂揚しあった人間の広場でもあったのだろう。
 
広場とは私達には馴染みが薄い場であるが、各々が生きて来た場所の何処かに広場的な場をイメージして生きて来たように思う。
 


 

 
 

   

 

 

 


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