建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第53話  バルト海の集落と住居
      中世ハンザの都市タリン
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
バルト海は北西部をスカンジナビヤ半島、東南部はヨーロッパ大陸に囲まれ海と言うよりも大きな湖のような内海である。総面積で丁度日本の大きさ程、その内海に面した国だけでも数えると9カ国もある。今回取り上げる国はそれらの、バルト海東南の国エストニア共和国である。私達には国名より三国まとまって、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニアの各共和国)としての方が馴染みが深い。
 
三国に共通しているのは、国土の面積が日本の九州程の小国であり、20世紀の後半までそれらの国を世界が独立した国と認めてなかった事であろう。三国はヨーロッパ大陸と大ロシアを繋ぐ重要な立地として栄えながらも、歴史の中で常に強国の支配の中に在ってきた。
 
冷戦終結後であってもバルト三国の立場は、ロシアと欧米諸国の関係を占う、言わばリトマス試験紙のような国として列国から扱われ、時には利用されて来たのだ。激動する歴史のなかで、大国のどちらの色に染まるのか。
 
民族意識の強い国々であるが、繰り返し隣接大国の略奪や翻弄を受け続ける。やがて民衆の心ははバラバラになり、自国へのアイデンティティさえも失い強国の意のままに染まる国のように捉えられていたのだ。
 
1991年ロシアからの独立。多くの国々が三国の独立後の将来を危ぶんでいた。がしかし三国の動きはその予測と大きく異なり、自立性を保ち確実に発展して行く。今日それは奇跡とも言われているのだ。
 
話をエストニア共和国にもどそう。エストニアはそうしたバルト三国の中でもいち早く民族の結集を呼びかけ、国造りに着手してきている。その中心になっている都市がタリンの街で、その街を数回に渡りお伝えします。
 
エストニアはバルト三国の北端に位置し、フィンランド湾に面した国。その首都タリンは対岸の国フィンランドの首都ヘルシンキまで80kmしかない。そうした立地特性が、タリンと北欧諸国との交流を強いものとさせてきている。
 
今日の都市が出来たのは12~15世紀頃であるらしい。それまでエストニア人達の砦のような集落が在った地を、デンマーク人が占領し城や館を建てた。その後スウェーデンやドイツ人達がロシアとの交易を目指して都市を築いて行く。
 
今日のタリンの町の建築群は、そうした中世ハンザ同盟の商業都市としての構造と、タリンを統治した歴代の支配者達の城塞都市の二つのが組み合わさって出来ている。
 
タリンと言う都市名はエストニア語での「デンマーク人の建てた城、館」に由来するらしい。市の名前がすでにこの国の複雑さを物語っているようだ。
 
ドイツの街並よりもドイツ的な姿を停めると伝えられるハンザの商業地、デンマーク王が最初に築いた丘の上の城や館群。それら二つの異質の施設群が東西に対峙しながらも、周囲2.5kmの城壁の中に建設時と殆ど変わらない中世の佇まいを今に残している。
 
二つの街の地形の高低差は24mある。ビルに換算すれば6~7階程度の高低差であるが、かって誰も超えられない身分を示す壁としてあったのだろうか。二つの景観の相違はそれを鮮やかに示してくれている。
 
中世ハンザの市民の街から、支配者の丘を見上げれば丘は緑の森で囲まれ、その森の中で王や貴族達の施設が高く聳え立って見える。永い歴史が二つの関係を柔らかく見せてくれているのか、それはけして威圧感に飛んだ嫌みの景観としては見えてこないのだ。
 
支配される側の街と、支配する側の施設がこれ程接近しながらも互いの相違を失わず、空間として美しく対比させている街並を他に知らない。
 
「場所には力が在る」と言ったのは確かギリシャの哲人アリストテレスであったと思う。地形状の24mの高低差は、市民の住む下町との永遠に残る差となている。その場所の力を地を巧みに利用し、占有することで支配者達(山の手)はのその権力をより強く示そうとしたのだろう。一方低い街はハンザの商業の街(下町)として栄えて行く。風景が示すように二つの関係はおそら対峙しあいながらも、互いに利用し利用されると永い間共存共栄を計って来たのだろう。
 
デンマーク、スウェーデン、ドイツ、ロシア、ソ連‥‥と永い占領下に喘いで来たタリンは1997年に世界文化遺産に登録された。
 


 

 
 

   

 

 

 


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