建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第50話  北ロシア、カレリア地方
      湖畔の集落とサウナ
 


 

 
 
 
 
 
 

 
北ロシアのカレリア地方は隣がフィンランド、大小6万にもなる湖と森林地帯である。他民族との争い、襲来に喘いできたロシア南部や東部の地域と異なり、ここは言わば世界の果てを思わせる北の辺地でもある。
 
その過酷な自然環境が永い間の人々の進入を拒み、その結果町や村の自立性が保たれて来た。1年の半分以上が雪や凍土の中。短い夏の間に木々は芽吹き、草花が咲く。人々はその合間をぬって大地を耕し、生きる為の食料を作りそして冬に備える。住まいとはそうした厳しい環境に向けての備への場でもあるのだ。
 
中世ロシアの生活や、その様子を伝えるような集落や木造建築は、ロシア各地でもう殆ど見られなくなっている。がしかしこの地域は、かろうじてかってのロシアの農村生活を住居形態を、今日に色濃く伝えてくれているように思える。
 
6万もある湖、その中の一つオネガ湖でキジー島という小さな島集落を訪れた。キジー島は近年激少する北ロシアの木造建築を、野外に移築保存している島としても著明な島である。島の南側の一部がそうした用地にあてられ、人々の暮す集落は島の北部にある。島は一周しても数時間で巡れるように小さなく、南北に細長く伸びている。中央部は小高い丘で、牧草地と畑地になっていている。集落はその丘を背に湖畔に沿って築かれていた。
 
住居は数にして数十棟であろうか、けして大きな集落ではない。湖畔沿いに伸びるぬかるんだ道に妻側を見せ、奥に細長く築かれていた。造りは木造2階建ての校倉造り、住居一棟の構えがどっしりとして規模も大きい。1階は倉庫や物置きに使われているようで、薄暗い部屋に古くなった小舟や漁業の為の網や小道具が、所狭しと積み重ねられていた。2階が家族が暮らす居住の場のようだ。
 
隣との間は庭のような広めの空き地、おそらく漁業や畑作業の為の準備や、取り入れ作業の場所にでも利用するのだろう。その場から背後の丘の畑地と牧草地が見え、道路を隔て湖が白く光って見える。近ずくと湖は黒ずんだ青で、背丈程の蘆が一面に茂っている。その蘆が途切れた入江に木の桟橋がかけられていた。桟橋は位置からすると住居に対応して設けられているようである。
 
桟橋の近くに大きさにして畳み10畳程、平家建て、切り妻や屋根の小屋が建てられていた。遠望すると湖に面し幾つか同じような建物が見られる。漁業の為の倉庫にしては校倉の丸太も奇麗に積まれ、洗練された造りに見える。
 
近くで丸太を刻む住民に訪ねたら、サウナ小屋であるとの答えが返って来た。こうした吹き曝しの湖畔に独立して建つサウナ小屋とは、どのように利用するのか我々には理解出来ない。湖に面し入れば夏は気分はよいだろうが、それでも水は凍りのように冷たいのだ。それに半年以上も雪に閉ざされた冬季はどうするのだろう。
 
そうした質問に彼は笑いながら答えてくれた。「サウナで全身を暖まった後、桟橋から飛び込む。水の冷たさが心地よいんだ。冬は水の代わりに雪だがね、たまらないね」と言う。家族、時には仲間を交え、話ながら冷えきった身体を永い時間をかけ暖める。そして湖に飛び込み再び身体を冷やす。これを幾度か繰り返すのだ。
 
百分は一見に如かず。後日カレリア地方の集落探訪を終え対岸のフィンランドで、彼の言う大自然を裸で体感する心地よさを十分に堪能した。童心返ったような不思議な感覚であった。
 
雪に閉ざされた北ロシアの生活、来る夏に向けての作業は在るにせよ、人々の楽しみはウォッカとサウナなのかも知れないと思った。ここではサウナは単に身体を暖めたり清潔に保つ機能だけではないのだ。家族や近隣の仲間と楽しく語らい互いの絆を深める場でも在るのだ。湖や森林、厳しい自然環境はきっと、その思いをより高揚させ、確認する為になくてはならない背景でもあるのだろう。厳しい自然を裸で感じ、そして楽しんでしまう。サウナは集落の癒しの場、共に生きる事を確かめあう場、自然を感じるコミュニティ施設なのだろう。
 


 
 

   

 

 

 


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