建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第47話  南仏の山岳村.2 サン・ポール・ド・バンス
 
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
眩しく強い陽の光が樹上に降り注ぐ。光は枝葉の中でシェイクされ、細々した無数の光の輪になって、地表に様々な模様を描き出している。それらの光の輪を楽しむように、不思議な形をした彫刻が林の中に点在している。コートダジュールはアーティスト達がこよなく愛した街、彼等の作品が路上に広場に街の至る所で見られる。
 
マーク財団美術館は、それらの中でもこの地域の鷹の巣村(山岳村)を代表する美術館である。ミロやジャコメテイ等の現代彫刻が野外の松林にまで無造作に置かれている。ここでは彫刻に限らず全ての人工的な創作物が、自然の中で個性的を失わず、その上自然と程よく調和して見える。
 
その最たるものが集落である。切り立つ山の上に、急峻な緑の斜面にその美しい姿を見せてくれるのだ。人間が成し得た最高で最良な彫刻、それも多くの人々の手による群としての共同作業。ある意味で集落は途方もない時間と労力のかかった芸術作品ではないのかと思う。
 
サン・ポール・ド・バンスの村。この集落は数ある南仏の集落の中でも抜き出て絵になり、そのうえ美しい集落でないだろうか。その為この集落を目当てに各地からアーティストを始め多くの人がこの地を訪れる。
 
マーク財団美術館からこのサン・ポールの集落は目と鼻の先きにあり、ミロやジャコメッテイの現代彫刻越しに、対照的なその美しい中世の集落景観を見せているのだ。
 
当然村は鷹の巣村の一つで、険しい山頂に造られている。がしかし建築物の建つ山頂付近が比較的なだらかな為か、他の鷹の巣村より穏やかなシエルエットを示している。
 
遠望すると建築が尾根筋で緻密に重なり合い、一体になって大きな家並の群と見える。集落のほぼ中央に聳えるのが教会塔、実際集落の中に入ってみると教会はかなり村の北側に位置するのだが、集落が地形の関係を巧に利用し築かれているから、見る方向によって教会は村のほぼ中心に置かれているように見えるのだ。
 
集落の外側には城壁が巡らされている。16世紀頃に築かれたらしい。城壁は尾根筋と急峻な斜面との境を蛇行しながら、集落をを一周するように築かれている。遠望すると城壁の内側と外では風景が極端に異なるのがよくわかる。内部は狭い通りに沿って隈無く建物が築かれた居住エリアである。外部は急な斜面とそれを被い囲む森林や耕作地の非居住エリアとなている。この風景が数百年たった今も変わらない。
 
城壁の役割は当初、外敵の侵入を防ぐ目的で造られたのだろうう。がしかし城壁の上と下に、対極する二つの景観を遠望していると、城壁は外部よりむしろ内部に向けて強く働いていたように思えてくる。
 
それはある意味で内にも向けた防衛機能であって、中世の権力者の支配体制を貫徹する為の視覚的な壁(城壁)でもあったのだろうと思う。城壁内に住みさえすれば外敵に対して家族は安全である。その結果内部の秩序維持として、人々は利不純な足枷を受けることになる。
 
中世都市や村の魅力は、そうした足枷を受けて社会は成立していても、その足枷や支配の力が地域でかなり温度差があった。つまり比較的、地域独自の統制や支配が行われていた。だから国々によって、地域各々で個性的な生活や文化が生まれ、都市や集落そして建築等に見事に投影されている。無名な人々による巨大な芸術、それが私達の心を打つ。
 
サン・ポールの集落はそうした中世集落を代表するものであろう。遠望する村の美しさにはこの地域独特の時代性や人々の思いが込められているように感じる。
集落の美しさは、単にその集落が築かれた自然地形や風景の美しさによってのみ持たらされるものではない。何よりもそこに生きていた人々の生活、自然や社会にたいする知恵や共有の約束事などが充実していなければならない。その約束事が先鋭であればあるほど、集落は個性的でオリジナルな景観となり私達を感動させてくれるのであろう。
 


 
 
 

 
 

   

 

 

 


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