建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第44話  ミロス(風車)が見守る集落
 
 


 

 
 
 
 
 
 

 
かって村や町を繁栄させた産業が時代の流れで衰退して行く。その名残りが廃屋となって、町の中に残されていたりする。
 
例えば港町の倉庫、造船場跡、工業地帯のキュウポラーや鉄塔、養蚕場の作業場や倉庫、製材場の煙突等‥‥‥数あげればきりがない。最近では町中の風呂屋の煙突等もこれにあたるかもしれない。
 
用を無くしたそれらは、遅かれ早かれ何時の日かは解体され、町の風景から消えて行く運命にあるのだが、同時にそれらを介した人間関係までも消え去って行くようにも思えてならない。
 
私達の訪れる集落はいつもそのような流れの中に在る。私達は単に訪れたその瞬時の人々の在り様や、風景を見てのみ感動や共感を覚えているに過ぎないのだ。
 
エーゲ海のミコノス島で、海に面した丘に横一列に並んで建つ不思議な風車を訪れた。船から眺めると集落を背景に白い灯台が4列に並んで建っているようにも見える。
 
白一色に塗られた迷路の町を迂回し風車の建つ小高い丘を目指す。観光シーズンを前にした島は人陰も疎らだ。暫しの静寂なのか、痩せた野良犬が何匹か小さな岩陰で、海を眺めるかのように寝転んでいる。
 
草木も生えないような荒れた岩肌の大地、その上にしがみつくように風車は建てられていた。近くで遊ぶ子供達に「何の為の施設か」と訪ねたら、粉挽き小屋の風車(ミロス)であると答えが返って来た。エーゲ海を渡る風を利用して小麦を粉にする為の施設なのだ。
 
案内によるとかってはこの丘だけで、10棟ほどのミロスが建てられていたらしいのだ。小麦粉は島の人々の食材(パン粉)としてだけでなく、近隣の島へも船で運ばれていたらしい。
 
かって粉引きはミコノス島に取って重要な産業だったのだ。風車の羽の大きさ直径13m、下部の円筒形の粉引き小屋直径6m、高さ8m弱、見上げるとかなり大きい。最近は機械挽きされた粉を使用し、パンを焼く家が多くなたとかでミロスは、かっての役割はほとんど果たしてないようだ。
 
ミコノス島は、父系血縁の同族社会を取る。これをクランと呼び、ミコノス島だけでなくキクラデス諸島全域、さらには地中海地域に広がる同族社会集団である。
 
分り安く言うとあまり例えが良くはないが、あのマーロンブランドの扮するマフイア映画、ゴッドファザーのファミリーを思い起こせば良い。血を分けた小集団の絆が何よりも大切で、その為に同族内での結婚はもとより、一族固有の方言を話す。ファミリーのアイデンティティを計る為に同族だけの礼拝堂も築いているのだ。
 
集落内の多くの場所に立つ公的なギリシャ正教会とは別に、住居に混じりヴォールト屋根を持つ個性的な「◯◯家の私設礼拝堂」が建てられている。その数も多く、路地が複雑に入り込む集落の目印となって人々を楽しましてくれている。礼拝堂内に入るとキリストのイコンと共に、その周りに亡くなった歴代のファミリーの写真がたくさん飾られている。その中心がゴッドファザーなのだ。
壁や床下にファミリーの骨を入れ込む慣習もあると聞く。
 
さすがにこれは政府が近年禁止命令をだしたらしいが、なかなか彼等は止めようとしないらしい。父の座どころか、日々、妻や子供に冷たい視線に曝されている何処かの国のファミリーとは、どうも天と地の差があるようである。
 
話を粉挽き小屋のミロスに戻そう。ミロスは島にこれと言った産業が発達していなかった19世紀頃には花形産業で、こぞって有力なファミリーがミロスを築いたと言う。今は最盛期の1/3程が島内に残る。
 
礼拝堂がファミリーの精神的絆を求め築かれていたとすれば、丘の上のミロスは、一族の富みや権力の象徴としてあったに違いない。機械化された小麦粉が出回り、用はどんどん無くなったと言え、ミコノス島の丘の風車は今日でも島民に支持され、ファミリーに支えられ健在である。
 
どうやら観光と言う島の新しい機能に、エーゲ海の海と島を見守るシンボルとして風を受け再び回りだしたように思える。吹く風はゴッドファザーの息吹でもあるのか。古いものにも考え方一つで生きる道はある。
 


 
 

   

 

 

 


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