建築計画研究所 都市梱包工房

ARCHITECTURE DESIGN & CITY PLANNING OFFICE

 


 

 
第40話  バリ島.4 住居は集落の縮図
 
 


 

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
山は人々に幸をもたらす方向(カジャ)。それに反して海は不浄な場、人々を苦しめる方向(ケロッド)。この二つの方向に東(太陽の登る清清しい生の方向、カンギン)と西(日の沈む生き物の死に繋がる方向、カウ)の方向を加えた世界観が、古来からのバリ人の空間感覚となり、それらが反映されてバリ特有の生活文化を築いて来ている。住居や集落の基本構造は、その代表例であると先回述べた。では具体的にはその空間感覚とは、それによって築かれた集落とは住居とは、どのようなものであるのだろうか。
 
海と山を縦軸に、東と西を横軸に取り、各々の間に中間帯を設け合わせると、計九個の方位による升目の場ができる。この九個の場は「ナウ、サンガ」と呼ばれ各々の位置は善悪、幸不幸、生死、等から意味を持つ場となっている。いわば人の生きて行く為の、価値の道しるべ、バリヒンドウ特有の決め事の指標図のようなものでもある。古来から人々の住まいや暮らし、そして集落はこの相関図を下敷きにして築かれて来ているのだ。
 
例えばこの方位の相関図によれば、山側で東の場が最良の場となり、その反対の海側で西の端が最悪の場になる。従って山側の東側は聖なる場所として寺や祠を築き祖先を祀る。反対側は不浄の場であるから死者の場、寺や、汚水処理等の場になる。
 
島の南側で訪れた伝統的な集落は「ナウ、サンガの相関図」そのままを投影していた。集落のほぼ中央が椰子やバナナの茂る帯状の広場。石敷と芝生の広場で両側に住居が並び巾10~20m、長さは数百メーターも在るだろうか、山に向かって続いている。この帯状広場は通路でもあり、村の公共的な施設の場ともなっている。要所に樹木が植えられ集会施設、共有の倉庫等も建てられている。
 
集落へのアプローチは海側にあり、死者の寺等が造られ雑然として辺はあまり美しくない。北の山側は聖なる場として浄められ、バーニヤンの樹と祖先を祀る寺が配置されていた。島内にはこれらと同様な集落から、U字型の広場のもの、格子状道路の集落等幾つかのタイプがあるようだ。
住居もまた集落配置によって少しずつ異なるが、基本的には敷地を土の高い塀いで囲み、外部には閉鎖的構えを見せる事が多い。
 
町外れで一軒の住居を訪れた。外から見ると塀の中は一見普通の家のように思えたが、内部に入りその造りに驚かされる。塀の中には様々な形をした大小の建物、小屋、塔が立ち並ぶ。大きさにして3m四方位の木造の棟から、1m位の石の祠まで、総数4~50はあるだろう。何処かの墓の中に入った気分でもある。よく見ると一見バラバラに配置されている建物は各々に役割を持ち、建てられている位置にも法則性が伺える。
 
「ナウ、サンガの」教えが下敷されているのだ。東の山側の隅がこの家の聖なる場、祖先を始め万の神を祀る場となっている。それにしても住まいの棟の貧弱さからすると、数多い立派な造りの祠だ。その対角線状の反対側は便所や台所、汚水の場である。それ以外の棟は家族の寝室や広間、各種行事の為の棟である。「この住居では各部屋が機能ごとに分かれ、一棟ごと塀の中に独立して建てられている。まるで塀の中に祠や部屋棟を林立させ小さな村を築いているかのようである」どのような人の住まいかと訪ねると、極く普通のヒンドゥ教信者の家であると言う。
 
「塀の中の一つの部屋を一軒の住居と見ると、その部屋の集まりは小さな村。その小さな村としての住居がさらに集まり集落となっている。」住居は集落の縮図、何か二重の入れ子の中に入ったような不思議な感覚の住まい探訪であった。
 


 

 
 

   

 

 

 


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