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第9話 西多摩杉

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東京の森林を守る新しい市民運動―――“東京の木で家を造る会”

 そうした東京の森林や林業家の厳しい状況のなかにあって、未来につながるであろう動きが実を結びつつある。森林が好き、樹が好き、自然と少しでも接したいとの思いで集まったいくつかの市民グループである。特に“浜仲間の会”は、1986年に多摩地域を襲った大雪害の翌年に林業活動を手助けしようとして結成されたもので、いわばその後の一連の市民グループの母体ともなっている会である。そこで出会った仲間たちがさらに別のグループをつくり、現在“東京の木で家を造る会”へとつながっている。たとえば、“林土戸”のグループもその会がもとで、間伐から枝打ち作業まで、プロの林業技術を取得、伝承しようと市民が集まり、毎年池谷さんの山でその作業を行っていると聞く。みなそれぞれに異なる職をもつサラリーマンやOLであったりする。その“林土戸”のメンバーであった稲木清貴さんが事務局長を務めているのが“東京の木で家を造る会”である。家づくりを通じて、衰退し荒廃しつつある東京の林業に活性を与えることで、再生産可能な森林を守ろうとしているグループである。
 “東京の木で家をつくる”運動の先駆けであり、東京都でも住宅局が中心になって、西多摩材を使った家づくりをPRし、支援する準備がやっと始まったという。
 会は1996年に林業家、製材業者、工務店、設計者などが集まり発足した。今日では東京の木で家を建てたい人や興味を持っている一般会員も加わり、様々なイベントや活動を行っている。会では家を建てたい人に実際に森林をみてもらい、林業家の立場や施業の一端を理解してもらうことに努力されている。
 そのひとつの企画である「植林体験、記念植樹」が奥多摩町の三頭山(1527m)の標高800mほどの斜面、大たいらで行われるというので参加した。案内をしていただいたのは私の古い友人でもある建築家の小町晴久さんである。小町さんも会の当初からのメンバーで、この運動を熱心に推進しているひとりである。集合場所の奥多摩駅には、めいめい山支度に身を包んだ40人前後の参加者が集まっていた。植樹の場所はそこからバスで15kmほど山中に入る。海抜800m、傾斜度30~40度、大たいらの植林地は思ったよりきつい斜面にあった。この山の所有者である青柳実さんも来られていたので話をうかがった。奥多摩の若手林業家のひとりでもある青柳さんは、東京の森林と林業の現況を、「最悪な状況であり、もう公の組織や森林組合などに頼ってはやっていけない。もうこれからは自分たちの手で山を守り活路を見出さないかぎり、林業に未来などない」と熱っぽく語られた。そうした林業の置かれた現状のなかでこうした会の動きは真実に勇気を与えてくれるという。
 植樹は、昼頃から夕方近くまで行われた。最後に植樹(今回は檜の苗)をした跡に高さ1.5mほどの白い木杭が数本建てられた。よく見ると木杭の側面に文字が書かれている。
 「東京の木が健やかでありますように 平成13年4月7日 ○○○」とご夫妻の名が記されていた。「建築主が自分の住まいのために利用した木材のお礼にと植樹をして、それを記念として杭を立てているのです」と稲木さんが教えてくれた。
 木を使い、その木をまた植えることで山が蘇る。そうした自然の一部としてのサイクルを忘れなければ、木はこれからも再生可能な資源なのだ。その最も中心に林業があるのだろうと私は思った。
 植樹の後、数日後であるが、会の正会員である(有)浜中材木店の浜中英治さんや建築家の井上文さん、それを施工された大木建設工業(株)の菅田木一さんに話を伺い、その製材所や設計された住宅を見ることができた。それぞれに東京の森林を真剣に考えられ、なんとかしたいとの思いが強く感じられた。
 東京の森林は、もはや林業の山という次元ではとらえられなくなっている。都民ひとりひとりに残された大切な森林、そして緑として考える時期に来ている。そのためには公は税の優遇措置をはじめ、山を守ろうとする人たちに公的支援を可能な限りすべきであろうと考える。秩父多摩国立公園が制定されて昨年50周年を迎え、それを機に秩父多摩甲斐国立公園と名称が変わった。それはよしとしても、その公園面積の1/3が私有地であることを知る人は少ない。その私有地の森林が東京側では、今まで述べてきた多摩川源流域の森林なのだ。国の指定する国立公園の内部にこれほどの私有地が組み込まれている国は、先進国では珍しい。アメリカ、カナダなどは100%が国の所有地である。そうしたことからも、国や都は一刻も早く森林を将来的に支えていける具体的な法案を示すべき時が来ていると考える。

 

   

 

 

 


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