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第6話 木曽檜

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 自然休養林の対象面積728ha、赤沢の渓谷を中心に大鈴山、阿寺山、卒塔婆山の1500m級の山を含む斜面地(海抜1080~1558m)のエリアである。この斜面地一体が、樹齢300年前後の天然檜を中心に椹、?、檜葉、翌檜、高野槇等の優良針葉樹群の山となっているのだ。基本的には、人の手を入れない、自然の流れに任せた天然更新の森林なのであるが、谷部や木の覆い茂った場では、陰地に強い檜葉の勢力が強くなり、本来の檜を圧迫することになってしまうと、小須田さんは心配されている。たしかに日の入りにくい陰った斜面地の巨木下層に生い茂る若木は、よく見るとほとんどが檜ではなく、檜葉の幼木である。あと何百年先かわからないが、このまま放置し続けると、檜が檜葉に負け、青森と同様な檜葉の森林に遷移してしまうことになるかもしれない。木曽では檜で通ってきたのだから、檜葉の木曽はいただけない。自然の流れにすべてを任せるというのは、必ずしも環境保全につながらない。やはり、若干の人間の関わりが必要だと思うのだ。

伊勢神宮の式年遷宮材としての木曽檜の価値

 赤沢が自然休養林以外に有名になったのは、20年に一度行われる、あの伊勢神宮の式年遷宮材の準備林ともなっていることである。樹齢300年以上の良材の天然檜材を入手できる森というと全国でも木曽しかない。しかも、伊勢神宮のご用材ともなると、樹齢300~350年、直径は目通りで80cm、無節で5mものが取れなくてはならないという。木曽谷広しといえども今日その天然檜が残る場は数少ない。赤沢で昭和60年に行われたご神木材の伐採跡とその切り株を見ることができた。その切り株は優に人が幾人か乗れそうであり、年輪も緻密な超優良大樹である。伐採にあたっては、御杣始祭を行い、木曽に伝わる古式伐採方法である三つ紐伐りで行われた。チェーンソー使用の伐採が主になっている今日、斧のみを使用し、伐倒作業ができる熟練した杣は木曽でも数少ない。ご神木材は内偶用と外宮用の2本が対で伐られていた。杣は三つ紐伐りで2本の大樹を伐倒するときに内宮材が下になり、外宮材が上にクロスするように倒さなければならない。これを襷掛け方法という。ご神木には、其の伐り方にも作法というものがあるのだ。斧だけで行う杣の伐採技術にも驚くが、内宮、外宮のご神木となるような大樹が2本、対に並んで立っているような懐の深い森林があることにも驚く。
 自然休養林に接して、学術研究の見地から森を保持している、林木遺伝資源保存林がある。海抜1200~1300mの斜面地である。山車、楓、黄膚、白文字、紅満作等の紅葉の美しい広葉樹を下層に、その上部にすくと立つ檜の大樹群を見た。江戸時代や桃山時代につながる天然檜林であるのだが、その年月のわりには少しも古さや荒らされた姿が感じられない。隅々までよく手入れの行きとどいた檜と広葉樹の斜面とも見られる。それも調和のとれた驚くほどに美しく新鮮な天然森林なのである。尊厳なまでに美しい赤沢の天然檜森林景観。
 赤沢の森をさらに奥へと入る。丸山渡、千本立、奥千本と天然檜の斜面地を案内されて歩くうちに、私は木材としての檜ではなく、樹木としての檜の持つ魅力と素晴らしさに胸を打たれた。古来の人々が、なぜ社寺の用材に檜を使用するかが理解できた気がする。それは、檜そのものが神が宿る木なのであり、そのように見えても少しも不思議ではない良木なのである。檜の名前の由来が、火をたく「火の木」としての俗説から「良い木」を本説とする、との説もうなずける。まことに、すべてに「良い木」なのである。

木曽檜と“きそひのき”、そのふたつの檜の相違と木に生きる人々

 

   

 

 

 


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