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第5話 青森檜葉

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漁民の夢を乗せる檜葉づくりの歌舞伎の館、下北の楽しい木工館

 癒しの場に、よりふさわしく思えた場が他にもある。本州の北の果て、下北半島・佐井村の小さな漁村、福浦にある歌舞伎の館と、そこに隣接して建つ生徒10人、先生10人からなる福浦小・中学校である。鶴の舞橋ほどのスケールではないが、二つの施設も檜葉が使用されている。58戸の福浦住民が全戸を挙げて実現したものであり、演出から役者まですべて村民と小中学校の子供たちによって運営されているのだ。他に楽しみの少ないこの小さな漁村で、明治以降続けられてきた地域芝居の館なのだ。檜葉材の丸太を使った花道から、檜葉の香りと演じる村人の想いが伝わってくる。同じ下北半島の風間浦村にある(有)村口産業の村口要太郎氏は、檜葉材の根に近い低資材や端材、枝などを利用した手作り木工品を製作している。工房や工場には檜葉材を利用したユニークな家具や遊具、雑貨などが数多く並んでいた。キーワードは、“木の温もりと遊び心”という。現在は村口氏の人柄を慕って、木工体験に工房を訪れる人が絶えないという。また、青森市にある原木市場(青森県素材生産事業協同組合)に訪れた際にうかがった話によると、高価な一般檜葉材ではなく、檜葉材の“アテ”部分や曲がり、腐れの部分の有効活用は、天然材である檜葉材にとって重要な課題であるということだ。組合の専務理事・三上敏常氏は檜葉材の原木を前にして、多くの檜葉材は生長期に雪害、風害、動物害など、何らかの障害にあっているのだという。そうした痕跡が結果として樹内に残る。それがアテとなって表れるのだ。そのアテが一番多く出る部分が根元から1.8mの高さの部分。その部分は切り離し、安価で売ることになるが、その量が莫大である。したがって、先の村口氏のようなアテ材を有効に活用してくれる人は大切なのである。家具や生活用具、建具などの小物であれば、柾目の素性の良い良材よりも、アテやクセのある材の方が板目に変化があり、使っても楽しい。ただ、その分、手間がかかり、割れや曲がりなどの狂いが後日、出てくることがある。安価にムク材を楽しむには、その材の変化を許容する需要側の心構えもまた必要であろう。

青森檜葉の将来―――歴史は風景に表現される

 今回の青森檜葉森林探訪の中で、訪れる各地で多くの方々に出会い、檜葉に関する諸々の施設を案内していただいたり、さまざまな貴重な資料をいただいたりもした。そうした体験の中に必ずといってよいほどに出てくるのが、檜葉材にまつわる津軽藩と南部藩という言葉である。両藩とも貴重な山林資源である檜葉材に財源を求めたのには変わりはないが、その檜葉材の施業や管理方法には、極端に異なる面があるのだ。“檜葉一本に首ひとつ”とは、津軽藩がとった厳しい檜葉の管理方法を端的に表した言葉である。津軽藩は、檜葉の森林を“留山”と称して地元民の入山まで禁止し、優良檜葉の保護につとめたといわれる。その結果、津軽には純檜葉林が多く、かつて樹齢200~300年もの良材を多く産出したといわれる。一方、下北地域を管理していた南部藩は、早くから檜葉の伐採後の更新や植栽に力を注ぎ、檜葉林の永続的な活用を進めてきた。特に運上山制度と称した年々の檜葉伐採量を計画的に定め、伐採する檜葉の大きさ(5寸角以上の柱材が取れること)を限定させた施業法は今日でいうなら、森林生体を考慮した一種の択伐法であり、これは津軽地方が比較的、皆伐法をとっていたことと大きく異なっている。さらに、凶作や火災などの災害に見舞われた村民のために、“救助山”という制度をつくり、村民に格安で檜葉の立ち木を払い下げていたことや、広葉樹に限っては、村民に自由に伐採やその利用を任せていたことなどなど。農地になる平地が少なく、その上、冷害に絶えず見舞われていた下北半島の村民とぎりぎりのところで生き様を分かち合おうとした南部藩の姿勢がうかがわれたりする。
 ?や水楢などの広葉樹と寄り合うように混生し、群落を形成する下北の檜葉林の山々の景観は、数百年昔の景観とさして変わらないのかもしれない。津軽、下北の両半島をとりまく厳しい自然環境は、青森檜葉という世界に通じる素晴らしい樹を生んだ。その檜葉は、その材を育み生かそうとする多くの人や職人も生んできていると思う。私には、出会ったそれらの人が、檜葉の風景とともに、どこか人間愛と粘り強い情熱に満ちた、あの藩政時代に深くつながっているのだと思えた。
 ただ、少し残念なこともある。それは、あれほど素晴らしい檜葉材の建築、特に住宅への、構法を含めた利用や新しい開発が、今回の探訪の中では、あまりうかがわれなかったことである。檜葉材が国有地からの供給であり、現在、その伐採量が制限中であることなどが要因なのかもしれないが、一日も早く、安価で性能の良い檜葉材による一般市民の住宅を創出してほしいと願っている。
 

 

   

 

 

 


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