第1話 天竜杉
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当時の受注先は、県や市町村の公的機関が6割、他は別荘地を中心に民間施設。現在は、その逆の比率となっているらしい。
間伐材利用という面から弁天島ログビレッジの集会棟には、ふたとおりの間伐材を使用している。ひとつは植林して10~18年くらいのスギの除間伐材で、目通り直径にして60~100mm前後のもの、俗にいう足場丸太材の利用である。これらの材は磨き丸太に加工し、建物の化粧垂木、根太、バルコニー手すり等に使用している。もうひとつは、中径木と呼ばれ、樹齢25~30年時に除間伐される目通り直径140~180mmのものである。これは磨き丸太をタイコ挽きに加工してログハウスの耐力壁材とさせている。ほかは主伐期とみる60年ものを心柱に使用している。全体で使用している丸太材は、3m材に換算して1000本。同規模の在来工法による木造建築と比較して、4~5倍の木材使用量となっている。木工事依存率80%、木工事が終わると建物はほとんど完成となるから、手間のかかっている割には安価にできている。磨き丸太材は原則的には、9~2月ごろの冬期に伐採させ、山で葉枯らしさせたものを使用している。磨き方は、外皮を鎌などの刃物でそぎ、その後水圧バーカー(100~150気圧)で薄皮を吹き飛ばしてしまう。磨き丸太単独で売る場合は、さらに、荒縄や、ステンレスタワシで表面をしごいたりするが、ログ材は、水圧バーカーで磨いただけで十分である。
そうした磨き丸太を1本1本積み重ねたログハウスの壁面は、塗装をしなくても年を経るごとに、色合いが深く、光沢が増してくるのだ。磨き丸太には外国産材では得られない日本独自の素材感がある。その磨き丸太の素材感の魅力を同時期に建てられたログハウスのペンション「ログペンションシンフォニー」の支配人である天野進さんは、「もうかれこれ20年近くたつが、年ごとにインテリアが深みを増してくる。毎日座って見ていても飽きがこない」と、こう語る。
ログペンションシンフォニーは、スギ磨き丸太材で築かれたログハウスとしては、おそらく日本最大級のものであろう。この建物が建つ以前、この土地は、樹齢25~35年のウッソウと茂るスギ林であった。そのスギを利用して建てたのだから、木の魂は、未だこの建物の校木のなかに生きているのかもしれない。たしかに心が落ち着く。ここのインテリアは素晴らしい癒しの空間なのだ。
スギ磨き丸太ログハウスで全国に名を知られた、春野木材加工協業組合は、最近、円柱加工機によるログハウスをはじめている。いわゆるどこでも見られるマシンカット・ログである。それは磨き丸太をつくるのは手間がかかるとか、ノッチ加工が大変とか、おそらく深刻に悩んでの方針変更と考えられるが、簡単に処理できる技術やその商品は、誰もがつくりやすいから、その分、競争も激しいものになるはずだ。春野木材加工協業組合が、林業者達の商品が、そうした業界にもろに参戦するのはいかがなものなのか。これからログハウス界にも、本格的な競争の時代がくると考えられる。大手企業は、巨大資本を背景に安くてよい商品づくりを目指せると思うが、果たして中小のビルダーやメーカーはどうだろう。中小がとるべき道は、安くてよいものではなく、独創的でよいものであるべき。もちろん、独創的で安ければなおよいが、それは二の次。個性的でよいものであれば少し高いのは当然ではないだろうか。大手企業の求めるような、年に何百棟、何千棟ということを目標にしていないのが中小メーカーであり、ビルダーのスタンスであるのだから、量や安さが組織の主問題ではない。要は、他社に負けない個性的ログハウスを築くことが重要なのであり、そうした結果に良き理解者である購入者がついてくるのではないだろうか。春野の磨き丸太ログハウスは、林業者であるから可能であったと思う。
これらの問題は春野だけの問題ではない。全国各地のメーカーやビルダーに共通しているテーマであると考える。そして地域性とか商品独創性とかが継承されてこそ、メーカーとして個性が定着し、それらがブランドとなり、やがて日本型ログハウスと呼べるものになるに違いないのだ。